スーリャと白い精霊

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スーリャと白い精霊

犬橇の先頭を任されたダイスが物欲しそうに首を巡らした。ふんふんと鼻息荒く、瞳が期待に輝いている。 昨晩スーリャが抱き締めて眠った毛皮は、つややかに黒い。 「だめよ、ダイス! さっきたっぷり鹿の内臓をもらったじゃない」 「ははは、意気込み充分だな」 雑貨屋を営むゾマートが、スーリャの積み荷にゆるみがないか、確かめながら笑う。 「兄貴たちの分まで仕事が溜まっているの。湖が早く凍ってくれてほんとに助かった! 回り道してる時間は無いもの」 スーリャの住む集落から、ゾマートの店がある町まで、夏は馬で一昼夜。 湖が凍るとその上を犬橇で突っ切ることが出来るから、朝に発てば、日暮れまでに到着できる。 病気の父の看病と母の手伝いに加え、家畜の世話で忙しいスーリャは、たとえ半日でも家を空けるのが惜しいのだ。しかし、食料品や石鹸などの日用品は、嫌でも町で買わなければならない。 本当は、小麦が少なくなっていたから、湖が凍る前に来るべきだった。 けれど、湖のまわりに現れるという白い精霊が怖くて、泊まらず町まで行ける氷の季節を待ったのだ。 「いくら早く着くとはいえ、町では野宿だろう? お前さんみたいな年頃の娘さんは、普通怖くてできないよ」 「ダイスたちがいるもの。毛皮がすごく温かいのよ。それにもう15才になったから、家族の役に立たなくちゃ」 「もうそんなになるか。キイキィ小さな栗鼠みたいに泣いていた赤ん坊が」 「ええー栗鼠ほど小さくなかったでしょ」 母さんが渡してくれた銀貨では少し足りなかったけれど、ゾマートのおじじはおまけ(・・・)だと言ってスーリャの橇にあれこれとくくりつけてくれた。 「飛ばしすぎて落とすなよ」 「飛ばすな、なんて無理。兄貴たちが飛ばすように、ダイスに仕込んでいるんだもの」 「みんな、鉱山へ出稼ぎに出たってな。スーリャのとこは親父さんの病気が心配だったけど、あいつらがたんまり稼いでくるだろう。新年が楽しみだな」 「うん! 早く兄さんたちに会いたい! 今年はキャベツスープの作り方を母さんから教わることになってるの」 スーリャは帽子の耳当てを下ろし、先刻おまけしてもらった熊の脂をほっぺたに刷り込む。分厚い手袋を嵌め手綱を握ると、荷台の前に座り、ずっしりした鹿皮を膝に掛けた。
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