キカセテホシイ。

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キカセテホシイ。

「――大丈夫か、要?」  航おじさんがそっと声を掛けると「ああ、大丈夫だぞ! 心配無い」要くんははっきりとそう答えた。おじさんは、さっきまで黙り込んでいた要くんのことが心配だったみたい。それを聞いたら安心した様子で、夕食を作りにキッチンへ戻って行った。  再び、リビングで二人きり。  わたしの斜め左に座っている要くんは、少し下を向いて何かを考え込んでいる。多分、わたしにどうやって話をしようかと考えているのだと思う。わたしはセンターテーブルに手を伸ばし、すっかり冷めたココアが入ったマグを手に持って、飲むふりをしながらそっと要くんの横顔を盗み見る。  ――至近距離から見る要くんの顔。睫毛が長くてクリンクリン! 羨ましい。ビューラーなんて全く必要ないじゃん! ふわっふわの癖がついている髪の色は、アッシュ系のブラウン。透明感があって上品な色味。これがナチュラルヘアーって……神様は不公平だよ! 色白の肌は少し青みがかっていて、透明感が半端ない! そばかすがあるんだね。薄ぼんやりとした瞳の色は、よく見るとダークブラウン。高い鼻梁、薄い唇、完璧な造作と配置……溜息が出ちゃうほど、美しい。 「僕さ、あんまり話すのが上手くないんだよね……」  いきなり顔を上げ、(おもむろ)にそう切り出したかと思うと、「それでも約束だもんな」と要くんは呟いた。一瞬、わたしの(よこしま)観察(・・)がバレちゃったのかと思って、ヒヤッとしたけど違ったみたい。 「大丈夫。わたしは要くんの喋り方、好きだよ」  そう答えると要くんはニコリと笑んで頷き、のんびりとした口調でポツリポツリと話しをはじめた。   「小学校の6年間、地元の少年団でサッカーやってたんだ」 「ええーッ? いっがーい」  運動と要くんが結びつかなかったから……やっぱり、意外。 「そうかな? これでも運動神経は悪くない方なんだけどなー」 「そうなんだ。知らなかった、ごめんなさい。それで?」  その話がどんな風に高校生活に結びつくのか――興味津々のわたしは、ついつい要くんを急かす様な言葉を吐いちゃった。反省。 「6年生の時、僕はレギュラーで、試合にたくさん出てたんだぞ」 「凄いじゃん!」  背が高くて痩せ型の要くんは、決してヒョロヒョロではない。活躍したというのは本当だと思うけど、何となく今の彼からは想像し難いかも!? ――そんなことを考えているうちに、中学時代の話が始まった。  親に言われるまま受験し、すんなり合格したから入学したという都内の私立中。一回乗り換えをする電車通学には、直ぐに慣れた。  小学校時代から特別親しい間柄の友達がいなかった自分()は、都内や近県から寄せ集まった集団の中に特別な違和感を抱くこともなく、極めてフラットに新しい生活がスタートした。  そして、意気揚々とサッカー部の門を叩いた。しかし、そこは男子校。期待を胸に門を叩いたメンバーは総勢40名強。中には、クラブチームのジュニアスクールで鍛え抜き、県大会や都大会、更には全国大会に出場したという強者(つわもの)がうじゃうじゃいた。
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