キカセテホシイ。

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「かなめくんの高校時代って……。ワケワカンナイけど、でも、卒業できて、本当に良かったね」 「有難う。僕もさ、それだけは(・・・・・)良かったなあって思ってるんだ」 「――そうなんだ……」 「そうだよ。唯ちゃんの友達もさ、ギリの日数でもいいから、何とか卒業できるといいな」 「そうだよね……」  あ、ヤバい! 少し考え込んだらトリップしちゃってたかも!? ――要くんが、優しく微笑んでる。やだ! 恥ずかしい。でも、要くんだから(・・・・・・)大丈夫だよね。うん、これがわたしのことだなんて……きっと、バレてない。 「――あいつの作るハンバーグはもの凄く美味いんだ。カリッカリに表面を焼いてあってね……」  今は冬だから、きっとたくさんの大根おろしが隣に添えてある筈。その横には、表面が白っぽいのに、黄身がトロットロの目玉焼きが乗っているのが、うちの定番なんだ――要くんは、おじさんのハンバーグが如何に美味しいのか、力説しはじめた。よかった、大丈夫みたい。  香ばしい匂いが漂ってくると、要くんは身体を捻ってキッチンの様子を窺いながら『まだかな? まだかな?』っていう顔で、おじさんからの夕食の声掛けを待ってる。なんだか、子供みたいで可愛いな。パパと同じ歳なのに、変なのー! 「……で。有意義なお話が聞けましたでしょうか? お嬢様?」  おじさんが、わざとらしく質問してきたから何となくムッとした。だから、質問には答えない。 「おじさん。要くんが言ってた通り、このハンバーグ超美味しい!」 「だろ? だろ? 超美味いだろ!」  あ、要くん自分の事みたいに喜んでる。おじさんも、嬉しそうににやけてるし。なんだか……、モヤッとする。 「ねえ、おじさん。ママにも作り方教えてやってよー」 「無理だな。専業主婦の姉ちゃんには、姉ちゃんの流儀ってもんがあるだろ? 料理っつうのは、主婦にとっちゃ不可侵な領域なんじゃねーのか?」  あ、おじさん少し怒ってるっぽい。それに、わたしはママのハンバーグも好きだし、調子に乗ってたかも……。でも、何だかおじさんに素直になるのは悔しい感じ。 「ふーん。そうなんだ! じゃあ、黙っとく」 「唯ちゃんは、お利口さんだね!」 「要くん。わたし、もう17ですぅ」 「そうなんだよなぁ。小さいときから唯ちゃんを知っているから、ついつい子ども扱いしそうになるけど、それってレディーには失礼だよな。ゴメンね?」  要くん――  食後、日本茶を啜りながら三人で雑談をしていたら、あっという間に時間が経った。既に午後八時をまわってる。楽しい時間は、飛ぶように過ぎて行くんだね。 「そろそろ送っていくぞ。明日は学校だろう?」
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