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ウソナキ。
『まあ、そういう事。こっちは大丈夫だから。ああ、要がずっと相手をしてくれてる。明日には帰らせるよ。じゃあ、また――』
食後、要くんが洗った食器を拭いている航おじさんに帰る支度を促された。でも、どうしても帰りたくなくて……嘘泣きした。要くんがもの凄く狼狽えちゃって心がチクンと痛んだけど、それとは対照的におじさんが意外と冷静で――『あ、バレてるな』って思った。でも、引っ込みがつかなくて泣き真似をしているうちに、本当に泣けてきちゃって。心の奥底で、もう一人のわたしが『たすけて!』って叫ぶ。
軽く溜息を吐いたおじさんが、ママに電話をしてくれた。その通話が終わった途端、スーッと心が軽くなって涙がピタリと止まった。現金でごめんなさい――
「要くん、ごめんね。夜は耳栓して寝るから、安心しておじさんと仲良くしてね?」
照れ隠しで心にも無い言葉が口をついて出ちゃたんだけど、大きく目を瞠った要くんは少し考えるような仕草の後、とっても真面目な顔でこっちが火を噴いちゃいそうなことを言うからビックリ!
「大丈夫だよ。いくらなんでも、お客さんがいる時にはしないよ。なーっ? 航」
今度は、おじさんが目を瞠る番! 他意の無いピュアな要くんの発言に、狼狽えてるし! 目が泳ぎ始めた――って、矛先がわたしに向いた。
「余計なこと言ってないで、さっさと風呂入って寝ろ! 明日は家に帰るんだぞ?」
「うん……。ねえ、おじさん? もう少しだけ、要くんと話をしたいんだけど。ダメかな?」
「おまえはどうなんだ?」
「僕は、平気だぞ」
少し間を置いてから、おじさんが訊くと要くんはそう答えた。
残りの食器類は、話しをしながらおじさんが手早く片付けていて、ダイニングはピカピカになっていた。そしておじさんが『じゃあ、俺が最初に風呂に入るぞ?』そう言って、ダイニングをを出て行った。
また、要くんと二人きりになった。
「なにか、話があるんだよね? 折角だから、唯ちゃんが持ってきてくれたお土産のシュークリーム食べようよ! あいつが好きなシュークリーム、僕も食べてみたいし。美味しい紅茶があるから淹れるね」
ちょっと待っててね! そう言いながら、ケトルに水を入れガス台で湯を沸かしはじめてから紅茶の缶を開けた――ふわりと、お花みたいな香りが漂う――
「すごくいい香り!」
「うん。これは『ディンブラ』っていう紅茶。甘いものを食べるときに合う紅茶が欲しくて専門店で相談したら、これを紹介してもらったんだよ。それから、うちに常備してる。航も僕も気に入ってるんだ」
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