プティ・イエデ。

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「はい、どうぞ」  寝る前だから、カフェインが入っていないルイボスティーにしたよ。そう言いながら、三つのマグが載ったトレーを持って要くんがリビングに入ってきた。そして、いつもの定位置――おじさんの隣に座った。 「外は寒かっただろう? 今日は一日なにしてたの?」  開口一番、心配を思いっきり表情に乗せた要くんが訊いてきた。 「学校に行こうと思ったんだけど、やっぱりダメで……図書館で時間潰してた」 「お昼は?」 「ママが作ってくれたお弁当。図書館のロビーで食べた」 「制服なのに平気だったの?」 「結構いるんだよね。受験生とか? 制服姿もこの時期は珍しくないみたい」 「そっか。でも、無事で良かった」  ゴメンナサイ。わたしは、急に恥ずかしくなって俯いた。手に持ったマグの温かさが心に沁みる……ちょっと赤っぽい色のお茶も、優しい味。 「お弁当箱出しなよ。キッチンで洗っておいで」  要くんに言われるまで、汚れたお弁当箱の存在を忘れてた。いつも、ママに差し出せば洗ってもらえるから……。 「うん。水筒も洗わせてもらっていい?」 「勿論! 因みに水筒の中身は何だったの?」 「あったかいほうじ茶」  僕の家も、冬は温かいほうじ茶で、夏は氷の入った麦茶だったよ! そんな、他愛もない話で盛り上がった。 「おお! こんなに小さいお弁当箱なんだ。可愛いね」  わたしがお弁当箱と水筒を持ってキッチンに向かうと、興味津々の要くんがくっついてきて、シンクを覗き込んできた。 「こんなに小さいお弁当箱で足りるのー?」 「足りない時は、パンとか買うよ!」 「だよねー! 唯ちゃん、蓋のパッキンも外しなよ?」  パッキン? なにそれ? って戸惑ってたら、要くんが蓋の裏の周りの溝からゴムみたいな輪っかを外してくれた。 「仕切りも可愛いねー! これって、シリコンだから何度でも使えるやつだね。エコだね――」  男の人二人で住んでいるから、ピンク色のお弁当箱や水筒が確かに目立ってた。要くんは、小さなパーツ一つ一つにいちいち感動しながらも、時折わたしの様子を気遣うような言葉を掛けてくれた。  おじさんは、わたしたちの様子を黙って見ていたけど、しばらくして『風呂の準備をしてくるから、それが終わったら入れよ!』とわたしに声をかけてからお風呂場に向かった。おじさんと要くんはもう入った後だったみたいで、申し訳ない気持ちになった。
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