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「少しブカブカだけど、着れるよ! カッコイイね、これ」
要くんがルームウェアーを貸してくれた。男物のSサイズ。身長が165のわたしにはサイズ的な問題はなかったけど、身ごろが少し大きかった。わたしの体形は、ママ似。因みにパパは、ママより少しだけ背が低くてちょっとだけ太め。
「色が良いだろ? 気に入って即買いしちゃったんだけど、きちんとサイズの確認しなかったみたいなんだ……」
要くんがチラリとおじさんのほうを見て、肩を竦めた。
「僕にはちょっときつすぎて、ずっと箪笥の肥やしだったんだよ。こいつに見付かると小言を言われそうだから、奥の方にずっと隠してたんだ。結構見付からないモンなんだな」
片方の眉をヒョイと上げて、してやったり! といった表情で、おじさんのほうをチラ見した。おじさんは、思いっ切りスルーしてるし。
「唯ちゃん。良かったらここに来たときには、それを着てくれないかな?」
「え、……いいの?」
「勿論だよ。唯ちゃんにあげる。だから……、行くとこがない時には迷わずここにおいで」
さっきから一生懸命、目にギューッと力を込めて堪えてたのに! ヤバいよ、溢れてきた。目の前がぼやけてきた。あ、どうしよう、泣いちゃう!
「うん……」
あ。涙腺決壊――もうダメ……
「うわっ! タオル、タオル……」
要くんがあたふたと洗面所に走って行こうとすると、咄嗟におじさんが動いた。『おまえは、唯を見ててやれ』そう言って、取りに行ってくれた。戻ってくると、もの凄く肌触りの良いタオルをわたしの顔に押し付けた。『おいっ、女の子になにすんだよー!』って要くんがおじさんに怒るもんだから、泣きながら少し笑った。
スンスン、ズルズル……、早く泣き止まなくちゃ! 思えば思うほど、しゃくり上げちゃって恥ずかしい。そんなわたしの様子を見ながら、のんびりした口調で要くんが喋り出した。
「この前、『明確な答えを持ってない』って、僕、唯ちゃんに言ったよね? その答えを僕なりにずーっと考えていたんだけど、これから少し話してもいいかな?」
要くんが、優しく心地好いトーンで言う。
「あ、お前にも聞いて欲しいんだ」
隣に座るおじさんのほうを向いて要くんが言うと、砕けた調子で『おお! 臨む所だ』と応えていた。やっぱり、二人はいい感じ。
でも、わたしも要くんが好き! 優しくしてもらうとそれに比例して、好きな気持ちがどんどん膨らむ。どうしよう? どう、しよう……。
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