カナメクン。

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カナメクン。

 要くんは、ひとことひとこと噛みしめる様にこの前の続きを話し始めた。『話すのが苦手』だと言っていたけど、要くんのゆったりとした話し方には、嘘や誤魔化しが感じられないから安心できる。  ――僕は、あのとき皆と一緒に高校が卒業できたことに、心から感謝してるんだ。 「おい、要。お前、卒業式の日に俺と話しをしたことは憶えてるか?」 「んーン? そうだっけ……」 「……」  その話は、二人の時にしような? 要くんが、おじさんを適当にあしらってから先を続けた――  卒業式の後、AOでFランと言われている4大に入学した。  ……正直、僕の人生終わっちゃったのかな? と感じて、かなり落ち込んだ。しかし、今では本当に良かったと思っている。何故なら、アルバイトを始めそこで評価して貰えたことで、自分に生きる理由と希望を見出すことが出来たから。大手ではないし、待遇も決して良いものではなかったが、遣り甲斐のある会社で自分を必要として貰えたことは、人生に於いてとても重要な事だったからそのまま就職した。  なにより、サボり癖のある自分が、仕事には責任が伴う事を肌で感じたこと。サボるという行為は無責任であることを、大学時代に正しく理解することが出来た事は、大きな収穫だと思っている。  それもこれも、世間一般で馬鹿にされるようなランクの大学生活で、背伸びをせずに、等身大の自分を曝け出せたことが、自信を取り戻すきっかけになったのだろう。自分のペースで、最低限の卒業単位や国家資格を取得した。なによりも、4年で卒業できたことは嬉しかった。 『その会社が縁で、こいつと再会することも出来たしな――』  いま、公私共にとても充実している。努力をして、順風満帆な人生を獲得できた人を、心から尊敬している。しかし、自分みたいにちょっぴり遠回りの人生も、そう悪いもんじゃないと思うんだ。 『十人十色。多種多様。千差万別。百人百様。――唯ちゃんは、唯ちゃんのペースで歩を進めればいいんじゃないかなあ?』
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