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アレカラ、イチネン。
「唯ちゃん、いらっしゃい。久しぶりだねえ」
「やだ、要くん。この前、クリパしたばっかだし」
『ん? くりぱ?』だって! うふふ。今日も要くんの、のんびり斜めテンションが心地好いなあ。
「唯、インフルが流行ってるからしっかり手洗いとうがいをして来いよ」
「はーい!」
航おじさんは、相変わらずだし。でも、デフォルトルーティンって心が落ち着くんだよね。
冬休みがもうすぐ終わる。そして、わたしの高校生活も――……。
[三学期が始まる前に、遊びに行っても良いですか?]
(わたしが要くんにメールを送ったのは、約一週間前)
[ゆっくり話をしたいから、土曜日においで]
(すぐに返信があった。嬉しい)
[/(・。・) 了解! では、土曜日にお邪魔しま~す💛]
[OK! 僕の自慢の料理を食べさせてあげるから、お楽しみに~♪]
(要くんのお料理を食べるのは、これで二回目――電子レンジだけで作る料理に凝ってるんだって!)
数週前、クリパの準備で要くんの手伝いをした。あれって、料理っていうより理科の実験だったよ。でも、楽しかったなあ。
チーン!
「アチッ! アチチチッッ!」
テーブルの上には、レシピ・キッチンスケール・計量カップ・計量スプーン・レンジ対応のタッパー・キッチンハサミ、ピーラー、まな板、包丁、食材、調味料、……。それらが、所狭しと並んでいる。
キッチンスケールの上に、タッパーを載せて肉をハサミで一口大に切りながら、分量通りになるように放り込む。(男の料理だわぁ!)そして、ピーラーで皮を剥いた人参を包丁で小さく切って、これまたメモリと睨めっこしながら放り込む! いろんな食材でそんな作業を数回繰り返してから、調味料をきっちり分量通り計ってその中に入れていく。最後に軽くかき混ぜ、蓋を少しずらしてから電子レンジに入れて、ワット数と時間を正確に合わせてスタート! 次は、青菜を洗ってハサミでチョキチョキ。それを別のタッパーに入れて、スタンバイ!
「要くん、全部チンで作るの?」
「うん、そうだよ。冷蔵庫の中に入ってるのは、昨日の夜に作っておいたおかずだよ。後で一緒食べような」
冷蔵庫を覗くと、タッパーに入った色とりどりのお料理が整然と並んでいた。電子レンジレシピを知ってから、料理が楽しくなったっていうのが頷ける。
「この調理方法には、『適宜』『適当』『大体』『約』『目分量』がないんだよ。だから、毎回同じ味、同じ仕上がりになるんだ。すごいだろ?」
要くんの楽しそうな姿を見ていると、私も幸せな気持ちになった――おじさんも、毎回、そんな気持ちで要くんを見てるんだね。あの日は、かなめくんが作ってくれたおかずと、おじさんが買ってきてくれたケーキやチキンで楽しい夜を過ごしたっけ。
今日、わたしは――あることを決心し、それを決行するための根回しをしたいと思っている。決してお年玉のおねだりに来たわけじゃないのに……! 結局、『僕、お年玉をあげられる相手って、唯ちゃんしかいないんだから貰って?』なんて言われたら、貰わないわけに行かなくて、有難く頂戴した。この春から私服になるから、洋服代に充てようかな?
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