アレカラ、イチネン。

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「うわー。美味しいね、この煮物! 味がしみっしみで最高! しょっぱくないしー、甘すぎないし。凄いね、要くん!」 「そうかな? 電子レンジが全部やってくれてるから。僕なんて、全然何もしてないと一緒だし……。もう正月は過ぎたけど、筑前煮って正月っぽくていいだろ?」  嬉しそうな表情で謙遜したって説得力無いよ、要くん。そういえば今年初めて会うんだっけ。だから、お正月っぽいメニューにしてくれたんだね――煮なます、初めて食べたけど美味! 「あのね、要くん。メニューとかー、切り方とかー、混ぜ方とかー、時間のかけ方とかー、そういうのぜーんぶ、要くんが仕切ったんでしょ? それが凄いんだよー! 超美味しいしー、超ヘルシーだしね?」  丁度、一年前のこの時期。  わたしは悩んで悩んでこの家に駆け込んだ。いろいろと話を聞いて貰い、要くんからも高校時代の話を聞いた――あの時、ここに駆け込んでいなかったら……、今のわたし、どんな風になっていたんだろう?  その後の学校生活については、折に触れてこの家に報告に来ていた。あれからも劇的な変化があったわけじゃなく、決して平坦な学校生活でもなかった。勉強に遅れ、それを取り戻そうといった気力が湧かなかった部分にも変わりはない。最低限の単位を取得する為だけ(・・)に登校し、赤点にならない程度に試験勉強をする日々――ただ、ひとつだけ目立った変化があったとすれば、わたしにも『信頼』でき『味方』になってくれる存在が、学校に出来たことだった。  それは、保健体育を担当する定年間際の先生。進学校として名を馳せているこの学校では、受験に関係ない教科に対する生徒達の授業態度がどうしてもおざなり(・・・・)になってしまう。そして学校側も、それは致し方ない(・・・・・)と考えている節がある。そんな折『卒業』をするための教科として授業を受けている自分が、件の先生の目にはかなり異質な存在として映ったようだった―― 『今日は来たな! あとで、職員室に来なさい』  夏休みが始まる少し前頃から、唯が登校すると件の先生は必ず声を掛けてくるようになった。三年の学年指導主任も兼任していたこともあり、バレーボール部の顧問をしている関係で多忙にもかかわらず、唯の出欠席を細かくチェックしていたのだ。 『いいか、鷹野。この日とこの日は、決して休むんじゃないぞ?』  先生は、唯が卒業をするために最低限必要な(・・・・・・)、教科別の単位数計算をしていた。担任は難関大学を受験をする生徒たちの対応に忙しく、落ちこぼれの唯にまで手が回らなかったようだ。その時、唯は卒業できるかどうかの瀬戸際に立っていた―― 『とにかく、卒業を目標にしよう!』  先生はそんな言葉で唯を励ましながら、欠課時数や欠席日数を各教科の先生たちに逐一確認してくれた。そして、あと何日・何時間休むことが可能か(・・・・・・・・)という、他の先生が知ったらドン引きするような異例のアドバイスをしてくれた。  ――勿論、わたしだって! 釘を刺された日(・・・・・・・)だけは、決して学校をサボらなかった。
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