ソツギョウシキ、フタツ。

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ソツギョウシキ、フタツ。

 やっぱり、感動も何もないなあ……。つまんない。校長先生の話、長すぎるし! 理事長? PTA会長? みんな同じようなこと言ってるし……。ああ、退屈。やっと卒業証書授与開始だ。あと一息ッ! がんばれ、自分。 「タカノユイ」 「ハイッ!」  練習通り。舞台袖から壇上に、右手と右足が一緒に出ないように注意して。校長先生の前にある演台の約1.5m前で両手を足の横に付けて、気を付け(・・・・)の姿勢で一礼。『以下同文』が終わったら、左足で一歩前に出て両足を揃えて、肘を真っ直ぐに伸ばして左手~右手の順に卒業証書を受け取る。受け取ったそれを目の高さに上げ、頭を下げる。そのまま左足で一歩下がって、両足を揃えて証書を下げ二つに折って左手でつかむ。また、気を付け(・・・・)の姿勢で校長先生に一礼し、壇上から下りて自分の席に戻る。まあ、上手くできたんじゃないかな? そういえば、さっき校長先生が『鷹野さん、卒業おめでとう』って言ってたけど、絶対わたしのことなんか知らないだろうなあ。ま、お互い様だからいいけどね!  それより――壇上から見た、あの光景! 超笑えた。そして、来てくれたことに超感謝。  スーツ姿の二人は、会場の最後尾に座ってた。  厳密には、航おじさんは座ってたけど、要くんは望遠カメラを持って立ってた。二人とも背が高くてイケメンオーラキラキラだから、目立つ目立つ(・・・・・・)! 在校生の女子達が後ろの方でざわめき出したかと思うと、それが 伝播したのか前列に座る卒業生の女子達、そのうち保護者席のお母さんたちまで、二人をチラチラと意識して変な秋波を送ってる。まるで猛獣の群れに紛れ込んだ子羊状態。多分、無防備な要くんは気付いてないだろうけど、おじさんはピリピリしてるんだろうなあ。 「いい卒業式だったな。涙が止まらなかったよ」  暦の上では春かもしれないけど、冬の寒さ真っ只中の三月初旬。式典が行われた体育館には暖房なんて無いから、超寒かった。式典が終わって一旦退場すると、皆、友達同士で教室に向かって行ったけど、私は引き留めてくれるほど仲の良い友達もいないし、すぐに引き返して二人の元に走った。どうしても会って欲しい人がいたから。  急いで会場に戻ると、二人は両親と合流して四人で話してた。要くんがズルズルと鼻を啜ってるからどうしたのか訊くと、ヘビーな花粉症だって。卒業式じゃ泣きっぱなしだったらしく、鼻詰まりとのWパンチで折角の美貌が台無し! でも、要くんはそんなことに頓着するような人じゃないから、チーンッ! って堂々と鼻をかんでる。黙ってれば、上品な貴公子なのに……。マジ勿体ない。 「今日は来てくれて有難うございます!」 「唯、卒業おめでとう」 「唯ちゃん。僕からも、おめでとう。自分の卒業式の時は、何の感動もなかったけど今日はもう! 泣けて泣けて……」 「お前、それは年取った証拠だ!」 「そっか。年取ると涙もろくなるって、ホントだな! ハハッ」  遠巻きにコッチを見ている人たちの視線が、すごい()。何気に、ママもこの二人と同じオーラ放ってるんだよなあ。パパとわたしだけ鈍色って感じ!? でも、ここまでキラキラの人たちの前じゃ、卑屈にもならないしパパなんてずっとニコニコしっぱなし! ここにいる事が嬉しくて仕方ないっていう表情! きっと、私もそんな顔してるんだろうな。 「あの。会って欲しい人がいるんだけど、少し待っててくれる? いま、探してくるから」  是非とも、会って欲しい――
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