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「で? 二人してなにを真剣に見てたんだ?」
おじさんが、要くんの手元を覗き込んできた。おじさんは、185の長身でがっしりしてる。太ってるわけじゃないけど痩せてもいない――バランスが良い身体っていうのかな? 力強くて、男らしい印象。顔は、精悍っていう形容詞がしっくりくる、確実に美形! 奥二重のシュッとした目元は、ママと似てる。ちょっと白髪が混じってるけど、髪の色は黒くて短く切り揃えているのに洒落て見えるんだよなあ。同じ男の人なのに……パパとの違いを誰か教えて!? って感じ。
「あの時の写真だよ。ここの棚を片付けてたらそこから出てきたんだ、懐かしいだろう」
「どれだ? 見せてみろ」
ヒョイ! と要くんがおじさんに手渡したのは、さっき見ていたのとは別、美しい装丁が施されているほうのアルバム。それは、わたしの成人記念に家族で撮った写真だった。(要くんは、写真をすり替える瞬間に、チラッとこっちを見て片眼を瞑った。『ナイショ』の合図だと思ったわたしは、軽く頷き返した――多分、正解だったと思うんだけど)
約三年前のこと。
『市区町村で催される成人の式典には、参加したくない』とわたしが言い張ると、『せめて記念写真は残そう』ということになって、前年の12月上旬に前撮りをした。写真には総勢八人――母方の祖母、父方の祖父母、両親、おじさんと要くん――わたしを中心にして、皆が畏まった表情で写真に納まっている。振袖は苦しかったけど、あの日はとても嬉しくて少し感動した。
『家族で写真を撮る』と言われた時、メンバーを聞くとおじさんたちが入ってなかった。かなりショックを受けたわたしは、『あの二人が来ないなら、撮らない!』と、二十歳にもなって駄々を捏ねた。誘われた二人もかなり抵抗したらしいけど、最後は必死な両親の説得に折れてくれたと聞いている。
――わたしだって、写真撮影の当日までハラハラしていた。自分の判断が吉と出るか凶と出るかと。しかし、撮影が始まって直ぐに、これは『吉』だと思った。だって、とても自然に両家の家族の中に二人が馴染んでたから。撮影が終わった途端『ああ、良かった!』って、胸を撫で下ろしたことを思い出す。
「唯ちゃん! 僕等が着てるスーツ、カッコイイだろー?」
要くんが、明るい声で訊いてきた。そうだ! 思い出した。
この日、写真館が入っている老舗ホテルに彼等が現れると、周囲がざわついて視線が釘付けだった。あまりの存在感に、超目立ってたし。
「うん。カッコ良すぎて目立ってたよ!」
「やっぱり、スーツが良いと目立つもんなのかなー?」
要くんがおじさんの方を振り返って、笑いながら訊ねた。
父親がイタリア人だという要くんは、色が白くて髪色がブラウンでふわっふわ! 背はおじさんと殆ど変わらないと思うんだけど、おじさん曰く『俺の方が1センチ高い!』だって。(どうでもいいけど)食べても食べても太れないという、羨ましいDNAを持っているらしく、痩せ型で顔が小さい! 超小さくて、八頭身? いや、九頭身かも。とにかく、きちんとしていればモデル誌から抜け出してきたんじゃないかっていうくらい美しい。けど、残念なのは……クリクリ二重瞼が、大抵ほんの少し閉じていて、なんとも精彩がないっていうのか薄ぼんやりした印象なんだよなあ。それと、普段のファッションがダサイ! ……ホント、勿体ない。
「そうだな。このスーツを着たら、自分たちの気持ちまで引き締まったもんな!」
「そうそう! そうなんだよ。これ作って本当に良かったよなー、航」
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