Epilogue

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「これ、美味しいですねえ!」 「でしょ? でしょ? おじさんの作ってくれるハンバーグは、わたしのイチオシなんだから」 「あはは! オジサン(・・・・)。若者ふたりに褒められて、良かったなあ~! うん。今日も変わらず美味い」 「ああ、ああ。オジサン(・・・・)で結構だ! もう、45だしな。四捨五入すれば50だぜ」  眉間に皺を寄せつつも、今度はおじさんが要くんに反撃。二人は同級生だもんね。 「うわっ! マジだぁ……」  僕もオジサンだ! って、ちょこっと嬉しそうに要くんが言うけど、要くんにオジサンはしっくりこないんだよな。  ここでの食事はいつでも楽しい。チラリと隣に座る彼の様子を窺っていると、不意に彼も私の方を見てニコニコ笑って『楽しい食事だな』と小さな声で囁いた。同じことを考えてたんだ……。  電話を切ってから30分くらいで来るのかと思ってたら、約1時間くらいしてから『最寄り駅に到着した』と電話があった。要くんも一緒に駅まで来るって言ったけど大掃除中だったし、わたしもちょっと思うところがあったから、やんわりお断りして一人で迎えに行った。 「ごめんな、遅くなって。夕飯時にお邪魔するからと思って、アンテナショップに寄ってきたんだ――」  北海道出身の彼は、『冬にしか食べてはいけない(・・・・)』という、いずし(飯寿司)、少し甘めで飲みやすいというブルーベリーワイン、ハスカップを使った珍しいチョコレート菓子や乾物などの入った袋を両手に下げて、改札から出てきた。 「かえって、気を遣わせちゃったみたいでごめんね。でも、きっと喜ぶと思う。ひとつ持つよ」  「ありがとう、助かる」と言って、彼は嵩張っている割に軽い方の袋をヒョイと差し出してきた。わたしはそれを受け取り、おじさんの家の方向にゆっくりと進む。 「到着する前に少し話しておきたいことがあるんだけど……。いいかな?」 「ああ、構わないよ。どっか入る?」  遅くなれば心配をかけるだろうから――少し寒いけど、公園のベンチに座って、温かい缶コーヒーで暖を取りながら手短に話をすることにした。 「これから行く家のおじさんって、わたしの母親の弟なんだけどね。一緒に住んでいる人がいるんだ。以前、高校の時の話をしたことがあると思うんだけど、その時の要くん――」 「憶えてるよ。高校時代、鷹野に特別なアドバイスをしてくれた人だよね? 助けて貰ったって感謝してた人でしょ?」 「うん」  もしも。もしも、彼が二人の関係に対して偏見を持つような発言を少しでも漏らした時点で、引き返してもらうつもりでいた。そんな決意の上で、掻い摘んで二人の関係を伝えた。 「へえ。そうだったんだー! いや、正直安心した。偏見? ないない。俺だって、周りから相当な異端児扱いされてきてたんだ。そんなことぐらいで、偏見なんか持つはずがないよ。個人の自由だろ? それより、要さんと鷹野の関係が……」 「え? そんなこと心配してたの? そんなのとっくに、清算済み。だいたい、伊東にそんなこと関係ないでしょ?」 「……う。ま、まあ」  なんだか煮え切らないけど。まあ、彼には同性愛に対する偏見が無いってわかったから、ぬるくなったコーヒーを飲み干し、ふたりでおじさんの家に向かった。わたしは、人生で初めて家族に友達(・・)を紹介する。なんだか、照れくさいような誇らしいような。そんなワクワク感で一杯だった。
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