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聞き間違いだろうか。見上げると男は目をつぶったら思い出せないような特徴のない顔で、優しくほほえんでいる。
「痛ッ」
急に強く握り締められた手に、思わず視線を落とすと、男の人さし指があり得ない方向に曲がり噴水の方角を指差している。
私は指の先を目で辿る。「そっち」は見たくないのに。
視線の先には噴水があり、その池の水面から、いくつもの人さし指が次から次へと生えてくる。カタツムリの目のように水から顔を出しては、指をさす。
私を。
そして指の数だけ、声が聞こえてくる。
「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「就職、おめでとう……」「……」「……」
男も「おめでとう」と言うと、私を池の中に引きずり込んだ。ぶよぶよにふやけたその指で。
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