第一章

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風邪でも引いたら大変だし、ただでさえ今月は忙しいというのに。 彼は私が気にしすぎてしまう性格だということを知っていて、最後に気にするなと言ったのだろう。 「…ありがとうございます」 頼んでないけど。それに、夕方までは仕事でずっと一緒にいたし、明日もどうせ仕事で会えるし。 夜10時過ぎ。私と彼は二人肩を並べて帰路についた。 「こんなに帰りが遅くなって、奥さんに怒られないんですか」 何気なく聞いた質問に、彼はふっと小さく鼻で笑って。 「まず会話がねぇから。喋りたくもない」 あの、それって結婚した意味あります? なんて、いつもそんなことを思う。 だって私が想像する結婚生活とは大分かけ離れていて、奥さんもこんな人が旦那でいいのだろうか、とも思ってしまう。 「面白いですね。結婚の意味ないじゃないですか」 「いつも言ってるだろ?俺はノリと勢いで結婚したから失敗したって」 不意に彼の左手を見ると、やはり結婚指輪なんてしていなくて。 でも結婚していることに変わりはない。子供だって確か、男の子がふたり居たはずだ。 それから他愛のない会話をして、すぐに私が住んでいるアパートに着いた。 「あまり無理すんなよ。それじゃ、おやすみ」 「お疲れ様でした。おやすみなさい」 彼はくるりと踵をかえし、来た道を戻っていく。 なんだろう。このモヤモヤとした気持ちは。考えても分からない。 私は両頬をパチンっと叩き、このモヤモヤとした気持ちを残してアパートに入った。     
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