あたたかい死体

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 実里も俺の両親も毎日見舞いに来てくれて、俺の手や頬を包んでくれる。ときには体を拭いたり爪を切ってくれたり、甲斐甲斐しく俺の体を触ってくれる。いつまで経っても目すら開けられない俺にとって、その温かさだけが安らぎだった。  意識が戻った直後はそのうち動くようになるだろうと安易に考えていたが、まったく改善はなく、俺は不安に押し潰されそうで叫び出したかったが、そんなことすらできなかった。  俺の体はどうなってしまったんだ。なぜ目すら開けられない。音はこんなにはっきり聞こえるのに、感触はこんなにしっかり感じ取れるのに、どうして俺の体は動かないんだ。俺は生きてる。目は覚めてる。誰か気づいてくれ。俺の声出てくれよ。  毎日毎日必死で叫び続けたある日、いつも元気に病室に入ってくる実里が何も言わず、そっと俺の腕を撫でた。他にも数人の気配がする。 「臓器提供なんて嫌よ。だってまだ生きてるじゃない。心臓だって動いてるし、温かいじゃない」  そう言って俺の額に触ったのは母だった。 「もちろんだ。脳死と言ったって、目を覚ます可能性はあるじゃないか」  寡黙な父が憤慨している。  俺には何のことだかわからなかった。もしかして、臓器移植すれば、俺は動けるようになるのか? しかしそれにしては、両親の反応が変だ。 「実里ちゃん、あなただって嫌でしょ?」     
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