あたたかい死体

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あたたかい死体

 目が覚めたとき、俺は自分の状況が理解できなかった。  目を開けたはずなのに瞼はまったく動かず、体を動かしたいのに、それはぴくりとも反応しなかった。  しかし耳は聞こえた。  どうやら俺は交通事故に巻き込まれ、生死の境をさ迷っていたようだ。思えば車で営業に出かけ、電話に出るため路肩に車を停車させていたとき、すごい衝撃を受けたような気がする。そこから先の記憶はなく、動かなくともわかる体の違和感に、そうとう大きな事故だったのだろうと察しはついた。  俺が起きたとき、病室には実里がいた。俺の手を握ったりさすったりしながら、話しかけてくれていた。俺はそれに答えたかったが、声も出せなかった。「はやく目を覚ましてね」という言葉に応えたかった。  俺はもう大丈夫だ。心配かけたね。そう言いたいのに、俺の口は頑なに開かない。  実里とは、4年の付き合いだ。2年前から同棲もしていて、お互いの実家にも遊びに行く中だ。  じれったかった。意識ははっきりしている。痛みはあるが声を出せないほどでもない。なのに、それから何日経っても俺の体はまったく動いてくれなかった。     
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