ぬくもり

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 弟は投げ捨ててあった私の通学カバンと、飛び出した中身を拾って、邪魔にならないように部屋の隅に置いた。それから、テレビの電源を入れて何回かチャンネルを変えた。選んだのはバラエティー番組のようだったが、興味がなかったので、内容は右から左に流れていってほとんど理解できなかった。  弟が傍を離れていく気配がしたが、部屋から出て行ったのではなく、台所に行っただけだった。  カチャカチャと陶器同士がぶつかる音がして、お湯を注ぐ音がした。それから、また少しカチャカチャ音がした。  弟の足音が近付いてきて、今度は真っ直ぐ、私に声を掛けた。  「ちょっと詰めて」 「ん」  私は言われた通り少しソファの奥に詰め、弟が隣に座った。  「これ、ココア」  弟が私に一つ、マグカップを差し出しながら言った。  「お湯で溶かすタイプだけど、ちょっと牛乳入れて温くしてある。持って」  私はゆっくりと膝を抱えていた腕を解き、代わりに両手でマグカップを受け取った。  柔らかい湯気が上がり、ふんわりと甘い匂いがしている。  「とりあえず飲んで温まって。指先冷たすぎ」  弟はそう言うと、テレビに視線を向けて時折笑い声を漏らした。  私はその声を聞きながら、マグカップを両手で包み込むようにして持ち直した。冷え切った指先に、じんわりと温もりが広がる。  温かいココアを、私はゆっくりと飲んだ。一口飲み込むたびに、お腹からも温もりが広がった。  やがてマグカップは空になった。私はそれをテーブルに置くと、再びソファの上で膝を抱えた。     
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