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ただし「彼女」ではない。
だって面倒くさいだろ「彼女」って。
束縛してくるし、すぐ浮気を疑うし。
「さて、腹もふくれたし、冷えないうちに帰って寝るか」
「待って、アレがない!」
地味女が血相変えてせわしく辺りを見回している。
なに探してんだか。この暗がりでわかるわけないだろ。
「せっかく、あなたがくれたのに!」
地味女は、はいつくばってアスファルトをなでまわしていた。
はい、ご苦労さん。同じモノが100均で売るほど並んでますよー。
と、冷めた目で見る俺だった。
が、気がつくとスマホで地味女の手元を照らしていた。
そしてさらに気づく。
「なあ、探してるやつって、お前の袖に引っかかってるよ」
俺が指摘すると、地味女は「えっ!」と驚いた。
次の瞬間、破顔一笑。
「もう二度となくさない!!」
「よかったな」
俺も笑みを浮かべた。あくまで社交辞令。
の、つもりだったが、胸がじんと熱くなるのを感じた。
──ヌクモリスト。
俺の脳をその単語が駆けぬけた。
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