和解

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 販売店へと向かうと、ディーラーの隣に1人のスレンダーな男が立っていた。聡明そうな顔立ちで、しかし笑顔で卓を出迎えた。卓がテーブルの前にやってくると、 「私は東京あんしん損保の白銀(しろがね)と申します。先日お邪魔しました金松は私の部下にあたります」  そう言って白銀は卓に名刺を手渡した。ディーラー、卓、そして白銀の3人は円卓を囲んで腰を下ろした。 「早速ですが、当方から新たな和解の条件を示させていただきたくお越しいただきました」  白銀はそう言うと、1枚の書面を卓に差し出す。 「当社で協議しましたところ、修理代の90万円に加えて格落ち査定分の30万円をお出しできるという話になりました。先日は金松が見当違いのことを申して誠にすみませんでした」  白銀はそう言って頭を下げる。 「でも、これでも新車には足りないですよね?」  卓がそう言うと、 「はい。確かに足りません。ですがすみません。これが精一杯です」 「……そうですか……お宅の誠意は分かりました。でも……」 「足りませんので、もうひとつご提案があります」  渋る卓に対し、ディーラーが口を挟んだ。 「提案?」  卓が訊き返すとディーラーは再び口を開いた。 「事故に遭ったお車ですけど、10キロも乗っていないんですよね。部品もほとんど新品みたいなものです」 「……それで?」 「その部品、当方で買い取らせていただきます。価格は全部品合わせて10万円です」  ディーラーの言葉を受けて卓の頭の中で電卓がカタカタと動く。そして130万の数字が最終的に浮かび上がった。 「もしそれでよろしければ弊社で稟議をかけさせて頂きます。そうすれば再度新車に乗っていただくことが可能です。どうなさいますか?」  白銀の問いかけに対する卓の答えは一択だった。新車を取り戻した卓は穏やかな表情で頷いた。
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