走行距離は10キロ

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 ガツンッ!!!   今まで聞いたことのない衝撃音とともに卓の全身が前に投げ出されそうになった。一度座席を離れてシートベルトで押さえられた背中は反作用で再び運転席のシートにぶつけられる。後ろの車の勢いが強かったのか、車はそのまま前方へと押し出される。そして  グシャリ  鈍い音とともにヘッドライトがタクシーのトランクに真正面からぶつかる。卓が運転席から降りると、後ろを走っていた黒い乗用車の運転手が神妙な面持ちで立っていた。 「すみません。ぶつけてしまいました」 「とにかく、警察を呼びますね」  怒りと動揺を何とか抑えながら卓はスマートフォンで110番通報をする。 相手の男も電話かけている。保険会社にでもかけているのだろうか。玉突き事故のもう一台の被害者であるタクシーの運転手は速やかにトランクから三角表示板を出して他の車の誘導をしている。人生で初めての交通事故だ。目が届かないところをプロがサポートしてくれているところに卓は素直に感謝できた。  5分も経っただろうか。パトカーが2台サイレンを鳴らしながら駆けつけてきた。卓はアクセルの効きにくくなったコンパクトカーをなんとか近くのコンビニへと移動させる。それと同時にタクシーと黒の車も卓の車の両隣に停められた。 「随分焦ったんじゃないの?」  事故処理をしている40代くらいの警察官がそう黒い車の運転手に尋ねる声が聞こえる。 「はい……気がついたら目の前に緑の車が停まってて……かわそうとして思わずハンドルを右に切りました」 「やっばり。ブレーキ痕もないしタイヤ痕も右側に曲がってるからねぇ。そう思いましたよ」  卓はそのやりとりを聞きながら愛車をまず後ろから眺める。後部座席の窓ガラスは一部破損し、周りには無数のヒビが入っている。車体は後部座席に届くかというくらい大きく凹んでいる。 結婚記念日である613の数字が記されたナンバープレートは見るも無残な形に曲がってしまっていた。前の方に回ると、タクシーのトランクに激突した跡が生々しく残っており、ヘッドライトのカバーも割れてしまっている。  卓が納車後に乗ったのは自動車販売店から家への3キロと家から介護事業所までの往復7キロだけ。  卓の「新車」は、たった1日、たった10キロにして変わり果てた姿の「事故車」となってしまった。
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