サーカスが町にやってきた

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サーカスが町にやってきた

 遠い外国でのおはなしです。あるところにちいさな町がありました。ちいさな町にはちいさな港があって、ひとびとは魚をとってくらしていました。ちいさくてなんにもない町でした。そこではしずかに時間だけがながれていき、なにもかわったことはおきませんでした。  そんな町でしたが、一年に二回だけサーカスがやってきました。春には南から、秋には北からやってきました。そしてその間だけは町中がお祭りのようににぎやかで、こどももおとなもサーカスがやってくるのをそれはとても楽しみにしていました。  春がおわって風の季節になると、サーカスも風といっしょに北のほうにいってしまいます。そして、ひとびとは思い出したように漁にでかけ、またなんにもない半年がすぎるのでした。そしてまた、時がたって秋が近づくと、みんななんとなくそわそわしてきます。こどもたちは毎日北のほうをながめては、つなわたりやナイフなげのことを話して、一日をすごすのでした。  秋になって、北風がサーカスをつれてやってきました。こどもたちが海岸にいってみると、砂浜には円いサーカス小屋がたっていました。近くでは、たま乗りや、つなわたりの練習をしている団員たち、テントの前でたばこをくゆらせてぼんやりひなたぼっこをしているジプシーたちがいました。こどもたちはくる日もくる日も海岸に出かけては、そういう光景を夕方おそくまで見ているのでした。ただ、だれひとりとして小屋に近づこうとはしませんでした。というのも、わるいことをしたらサーカスに売られてしまうと信じていたからです。
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