ウー

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ウー

 ウーがまだ3才のとき、ひどい熱病にかかりました。ウーはちいさなかたいベッドにねたっきりで、何日も何日もうわごとを言い続けました。ときどき目を開けては、こわい夢を見ていたといって、またすぐに目を閉じてしまいます。からだじゅうにびっしょりと汗をかいていました。お医者さんはもう助からないかもしれないといいましたが、ウーのおとうさんとおかあさんは夜もねないでつきっきりで看病しました。温かいおかゆを食べさせ、汗を拭いてあげて、熱いおでこを手ぬぐいで冷やしました。  一週間たったある朝、仲良しの犬、クロエがウーのおでこをぺろぺろとなめていました。昨日まではポカポカと熱かったおでこでしたが、今日はちょっとひんやりして、クロエにはようやく熱がさがりはじめたことがわかりました。ウーがゆっくり目をひらくと、クロエはパクパクと口を開けたり閉じたりしています。ウーはクロエのパクパクが面白くて笑いました。ウーが目をさましたことに気づいたおかあさんの、やさしいきれいな顔が近づいてきます。でも、おかあさんもクロエと同じように口をパクパクしています。ウーは、どうしたの?とたずねました。でも、しゃべったはずのことばは、どこかに消えてしまってウーの耳にはとどきませんでした。  ウーの耳は聞こえなくなっていたのです。
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