ウー

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 ウーのおとうさんはとてもじょうずなつなわたりで、そのサーカスのスターだったといいます。でもウーがまだちいさいころ、おとうさんはつなから落ちて、大けがをしてしまい、サーカスから去って行きました。しばらくして、おかあさんもおとうさんの後を追ってどこかへいってしまい、ウーはひとりぼっちになってしまいました。でもこれはウーが大きくなっていろんなひとに身振り手振りで教えてもらったお話しで、団長からは孤児院から連れてきたんだともいわれました。けれどもウーはつなわたりのおとうさんの話を信じていました。おとうさんの登場するときのけたたましい音楽、つなをわたり終えた後の割れんばかりの拍手の音を覚えているような気がするのでした。  ウーは少しおおきくなるとつなわたりの練習をさせられました。でもウーには怖くてしょうがありませんでした。けっきょく団長はウーをつなわたりにするのをあきらめ、ルネにあずけて道化師にしたのでした。  みんなが夕食を終えてくつろいでいるときも、ウーにはみんなの話していることが聞こえません。ウーはテーブルのすみっこで大事に残しておいたミルクをすすりながら、ジプシーたちがギターとアコーディオンでうたっているのをぼんやりながめては、ただにこにこと笑っているだけでした。みんながウーのことをからかって笑っていてもわからないから、やっぱりにこにこと自分の道化の顔のように笑っているのでした。
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