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ルネ
さて、ルネはその晩のことをよくおぼえていました。そして、出し物としてウーにトロンボーンを吹かせようと思い立ちました。そしてプジョールに古いトロンボーンをかりてきて、ウーを連れて練習をはじめました。いっしょうけんめいトロンボーンを吹いているウーをルネがへただと笑ったり、うまいうまいとからかって笑いをこらえたりするのです。ウーはできるだけまじめな顔でトロンボーンを吹いていればいいのでした。なぜってウーは耳がきこえないので、わざとでなくてもおなかのよじれるくらい変な音をだせて、しかもけっしてその音に自分でおかしくなって笑ったりしないのですから。
そしてある日のこと、ルネとウーはその新しい出し物をお客さんに披露しました。それはそれはおかしくって、その町のひとびとは生まれてこのかたこんなに笑ったことはないくらい涙をながして笑い転げました。ルネとウーも生まれてこのかたこんなに拍手をいただいたことはありませんでした。でもウーにだけはなんでみんながこんなに笑うのかさっぱりわかりませんでしたけどね。そして一度見たひとは、どんなにサーカスの道化師がこっけいだったかを必ずみんなに話しました。しかもウーがいったいどんな音をだすのか誰にも、ウー自身でさえもわかりませんでしたから、何度見てもおもしろくて、その日からはくる日もくる日もサーカスは大盛況でした。そしてルネとウーはいつのまにかサーカスいちの人気者となっていました。
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