鍛冶屋

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鍛冶屋

 そんなある日、プジョールが小屋のうらをぶらぶらと歩いていると、ウーの後ろ姿が見えました。声をかけてみましたがもちろんウーには聞こえません。プジョールは苦笑いをして、それ以上は近づかずにウーを見ていました。そして、プジョールはウーが自分のあげた古いトロンボーンを大切にみがいているのに気付きました。ウーはこうやって毎日宝物のようにそのおんぼろのトロンボーンをぴかぴかにしていたのでした。  ウーは立ち上がると、そっとくちびるをトロンボーンにあてて少しだけ吹いてみました。ぶーっと変な音がでました。プジョールは思わずぷっと吹きだしてしまいました。あわてて口をおさえましたが、もちろんウーは気付きませんでした。ウーはぶーぶーと吹き続けました。それはルネとウーの出し物そっくりでしたので、プジョールは笑いをこらえるのに必死でした。まあなんてとんでもないとんちんかんな音を出すんだろう。  そしてふと見ると、ウーは目をつぶって体を少しゆすりながら、まるでプジョールがとてもきれいな曲を吹いている時のようにうっとりとした表情で吹いているではありませんか。もちろん出ている音はあのへんてこりんなぶーぶーいう音でしたけれど。  いつのまにかプジョールの目から涙がこぼれてきました。なぜだかわからないけれど、涙はあとからあとからながれてきて止りませんでした。プジョールは振り返ると自分のテントにもどって泣きじゃくりました。 ウーはなんにも気がつかずに吹くのを止めると、誰もいないのにふかぶかとおじぎをして、椅子にこしかけました。そしてまた、せっせとトロンボーンをみがくのでした。もちろんその日もルネとウーはたくさんたくさん拍手をもらいました。でもプジョールはもう笑いませんでした。
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