朱色の双つ花

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 最期まで伸ばせなかった髪。「もう一人」に少しでも近づくのが怖かったから。どれだけ追いかけても、あの子には決して届かない。姿かたちをどれだけトレースしても、追いつけない絶対的な「何か」がある。比べられることが怖くなくなるために、別人を目指した。言い訳作りのために、少女は自分を作り上げた。凡人として、片割れの影と偽って。 「どうして、こうなるんだろう」 「それを知っても、もう何も変わらないよ」  見上げる少女の上燦燦と輝く太陽。誰もいない空──遠い遠い、遥か彼方が好きだった。そこに彼女を不安に苛む誰かはいないのだから。どこへ行っても誰かに愛されてしまう彼女は、片割れの少女以外の傍で安らぐことが出来なかった。  最期まで切り落とせなかった髪。少し化粧を変えただけ、少し似合わないコトを言ってみただけ。たったそれだけで、少女は好機の目と棘のある言葉に刺された。演じ続けなければ、存在すら認められないほどに。もう、一人の個人に戻れなくなってしまったから、少女は自分を作り上げた。偶像として、片割れの光と偽って。 「誰が悪いわけでもないのにね」  ぽつりと世界に落っことした一言が、揺らめく下界に辿り着く前に風に掻き消されていく。演じ終わった影を脱ぎ捨てて、晴天の照り付ける虚空へ投げた。焼け爛れたアスファルトの上の汚れた空気の中に、紛れていく。 「誰の為でもないのにね」     
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