朱色の双つ花

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 ふっと一人、自分に投げかけた言葉が、空の彼方に辿り着くことも叶わず虚空に紛れて消えた。演じ終わった光から抜け出して、不躾に澄み渡った空へ浮かぶ。いつの日か、誰かに侵食されるのかもしれない空へと、心を送る。  光だろうと影だろうと、人だろうと物だろうと。少女にとっては何も変わりはしない。同じ顔、同じ声、持っているから分かり合えることがあって、持っていれども分かり合えないこともあって、全く違う生き方を強いられて尚、二人だけの世界は成立していた。  その感情は名付けにくい何か。日記に書き連ねた思い出が唐突に陳腐になっていくように、形をつけて名前を付けてしまえば、その最も大切な部分が失われてしまうような何か。脆い、儚い、いつだって失う一歩前にあるようなそんな何か。 ──それでも。 「多分、良くないことなんだろうね」 「他に手段も知らないんだもの、仕方ないよ」  目を合わせずともお互いの表情は悟りつくしている。髪型を変え、服装を変え、生き方をずらしても尚追いかけてくる片割れを、何度恨んだだろう。自分と似ても似つかない、自分とそっくりな少女に、どれほど苦しめられたことだろう。ただ、今は知っている。お互いがその苦しみと痛みを存分に感じたこと。数えきれない数の涙を、同じだけ零していたことを。  目を拭う袖を貸し合いながら、やっとここまで上ってきたから。 「じゃ、行こうか」 「そうだね、行こう」     
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