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朱色の双つ花
この街のどこよりも太陽に近い場所に、少女が二人。
背中合わせの十メートル。片方は天を見上げ、もう一方は大地を見下ろす。不躾な正午の太陽がコンクリート製の狭い世界を灼いていた。
「ねぇ、怖い?」
「怖いよ。知ってるクセに」
瓜二つの顔が、目も合わせずに同じ声で語り合う。虚ろな目は何もかもを見通すようであり、何も映そうとはしない。ただ、見えないはずのお互いの顔だけが瞳の奥のどこかに共鳴し続け、その表情を陰らせる。少女たちは、疲れていた。
「でも、私が望んだことでしょう?」
「知ってるよ……誰よりも、私がね」
見下ろす少女の足元30メートル。故も知らない他人──それは、人ですらない何かたち。少なくとも、少女にとってはそうだった。どこへ行こうと理解されない彼女は、片割れの少女以外を、自分と同じ人間と認めることが出来なかった。
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