その手は温くて幸せで

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 寒い、冬は寒い。分かりきった事実だが文句を言わずにいられない。  どうしてこんなに朝早くのバスで通う高校にしたのだろうか。一年目の冬は大いに嘆いた。二年目になって慣れたかといえばそんなことない、一緒に嘆く子分も出来たし。  そういえばあの子遅いな。  早く圭が来ればいいのに。まあバスでもいいんだけど。 「『寒いから凍ってしまうよホトトギス』、おっはよう!エミちゃん」 「『寒いから口開きたくないホトトギス』」 「冷たっ!!」  少し待っていれば圭が来た。いつもの日常。私の朝はこのおチャラケ圭君との些細なやり取りからスタートする。  冷たくいなしているけど、実は楽しみにしているこの時間。  私たちの住んでいるところは市街地からだいぶ外れている。そこそこ世帯数はあるのだが中学までしかなく、高校は皆遠距離通学を余儀なくされていた。  同級生の大半が通うAという普通の高校がある。デキる子が挑戦するBという高校もある。そのどちらでもないCという、更に遠方の高校へ私たち二人は通っていた。  ほぼ始発のバスに乗らねば間に合わないC高校、早朝このバス停から乗る人間は私たち二人だけだった。    圭は来たがバスはまだ来ない。二人で並んで待ちぼうけだ。  空気は冷えていて吐く息が白くなる。はぁーと手に息を吹きかけ暖を取る仕草は許せるが、鼻息が二本の筋になるのは私の美的に許せない。うっかり出ないように首元のマフラーを引き上げ鼻まで隠した。  そしてその時、あれ? と気づいたのだ。
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