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二.掟
二
拓水が暮らす里は深海の洞窟の中にある。外敵から身を守るために作られている洞窟は、大きな魚たちが入ってこられないよう、入り口は人魚一人が通れるほどの広さしかない。入り口と出口は決まっているため、細く長い洞窟の途中でほかの人魚と鉢合わせることがないように作られていた。
静かな暗闇の中を進みながら、しばらくの間真っ直ぐな一本道を通るとやっと開けた場所に出る。
「拓水」
背後からかけられた耳慣れた声に、拓水は笑みを溢す。クルリと身体を翻すと、自分そっくりの顔を持った男の首に抱きついた。
「水樹っ、聞いて!」
「ちょっ……うわ、どうした?」
話したい相手がちょうどそこにいたことが嬉しくて、拓水は水樹の手を引き洞窟の外へと急いだ。グンと手を引っ張って、あっという間に里の外に出る。
驚いた水樹が何度も後ろから抗議の声をあげていたが、どうせいつものことだ。
「ごめん、ごめん……ね、今父さんは?」
「外に出てる、なんで?」
水樹は拓水の双子の弟だ。金色の髪も瞳の色も、細っそりとした体躯もすべてが同じで、父ですら喋らなければ見分けがつかないと言う。
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