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「そいつは、お前の手に負える相手じゃない。」
その声は、俺のちょうど後方から聞こえてきた。俺は体の痛みを忘れて、体ごと後方へと向き直る。
そこには、自分と同じ黒髪の男が、片手を前に突き出して立っていた。
「だ、だれだ......」
「今はまず、目の前の敵からだ。」
俺はその男の声を聞くと、不思議と心が安らいだ気がした。久しぶりに聞いた人の声だったせいなのか、それとも別の何かか。だがその男の声には、心を落ち着かせるなにかがあった。
突然、男の放つ気配が変わった。そして気配の変化と同時に、男の体から青白の炎が上がった。
その炎は徐々に全身へと広がり、やがて全身を包むと、次の瞬間には一気に霧散していた。
それがなんだったのか、俺には分からなかった。だがその疑問は、目の前の光景を見た瞬間、すでに跡形もなく頭から消えていた。
「銀の......髑髏......」
俺が見たもの。それは天井から僅かに漏れる月の光に照らされた、銀に輝く髑髏だった。
「立てるか」
「あ、あぁ。」
俺は、髑髏男の言葉にそう返してから立ち上がる。
「その姿は......いったい?」
「説明は後だと言ったはずだ。今は奴に集中しろ。」
「グァギヤァああああ!!」
「っ!?きたっ!?」
顔から胸へかけて半分ほど溶けた動く死体が、叫びをあげてこちらに向かってくる。だが「グベァ!?」
髑髏男の一撃をくらって、奴は走る勢いを完全に殺される。それどころか逆に、奴は後方へ数メートル押し戻されていた。
俺の時とは違い、今回奴は地面に足をつけていたためはるか後方へ吹っ飛ぶということはなかったが、押し戻された奴の足元が線を引いてえぐれているのを見るに、髑髏男は自分と同等かそれ以上のパワーを持つと理解できた。
「その力......」
「考えるのは後だ。無駄な思考は神経を鈍らせる、今は戦いだけに集中しろ。」
髑髏男はそういうと、動く死体へ向かっていった。
俺はその後に続く......ことはなかった。
「っ!?」
俺は、自分の腕を見て体を硬直させた。先の戦闘で、自分の腕には奴につけられた大量の切り傷と血がついているはず。しかし自身の腕を見ても、傷どころか血すら付着してはいなかった。だがその代わりに、黒と紫の肌が俺の目に映った。
「なんだ......これ?俺は......どうしたんだ?」
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