第4章 影と腐

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◇ 「......」 先の戦闘で吹き飛んだ寝袋を敷き直し、その上に人間の姿に戻ったカルトさんの体をゆっくりと乗せる。 戦いは、スカルが勝った。 あと数センチという僅差で、スカルの拳が先にカルトさんの頭部を攻撃したのだ。 「......カルトはこのまま、朝まで寝かせておこう。魔物の力を使ったせいで、おそらく相当疲れているだろうからな。」 「......」 「......イオ、一つ頼みがあるんだが。」 「......?」 そういうとスカルは、労わるようにカルトさんに向けていた視線をこちらに向ける。 「俺の代わりに、カルトに魔物の制御法を教えてやって欲しいんだ。」 「えっ!?お、俺がですか!?」 スカルの俺への頼みとは、スカルが俺に行った特訓を、今度は俺がカルトに対して行ってほしいというものだった。 「あぁ。内容は記憶しているだろう?その通りにカルトにも指導してやって欲しい。」 「......で、でも、カルトさんの意思が......」 「......」 その時、スカルの顔には、ほんの僅かに悲しみの表情が浮かんだ。そして、スカルは顔をカルトさんの方へ向けて、彼の顔にかかった前髪を優しく横にずらした。 「......おそらく、カルトは俺を殺すために、自らイオに特訓を頼むだろう。それも、短期間で習得できる厳しいものをな。」 「......心、読んだんですか?」 「......あぁ。今のカルトは、彼女の仇を討つことに囚われている。イオには頼んでばかりで申し訳ないが、俺では特訓をつけられそうにないんだ。」 「それで、俺に......」 俺は、少し考えた。 俺には日常があり、生活があり、学校もある。夏休みも終わったし、スカルほど時間が取れるわけでもない。ぱっと見、カルトさんに力の使い方を教え込ませるには、時間が圧倒的に足りない。 ......しかし 「......わかりました......やってみます。」 ここで俺が断ったら、カルトさんの魔物が暴走してあたり一帯火の海になるか、もしくはスカルとカルトさんの殺伐とした訓練風景が見れてしまう。 そんな光景を、進んで見たいとは俺は思わない。 それに、スカルの教えを復習するいい機会だ。......勉強は復習しないけど。 「ありがとう。......すまない。」 「大丈夫です。......でも、俺もあまり時間は取れませんし、内容も完璧に教えられるとは......」 「あぁ、それでいい。......カルトのこと、頼んだぞ。」 「はい。......?スカルさん?」 話を終えると、スカルは立ち上がり荷物をまとめ始めた。 「特訓には参加できないが、俺はその間にやるべきことをやっておく。魔物のことは俺に任せろ。」 スカルは、俺がカルトさんへの特訓で動けない間の魔物の処理をかって出てくれた。 ......けれど、なんとなくスカルの目的は、それだけではないような気がする......けどここは、これ以上は聞かない方がいいような気がする。 「わかりました。......寝袋とかはどうします?」 「そのまま置いておいてくれ。あとで回収しておく。」 「了解です。」 そして、荷物をまとめて立ち上がったスカルは、一言俺に告げると、まだ日の昇らない夜の中に消えていった。 「......ふぅ。」 スカルのことも気になるが、とりあえず、明日から頑張らなくては。
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