18人が本棚に入れています
本棚に追加
「近くで見ると、余計に汚れが目立つな。もうすぐ夜になるし、雰囲気的には肝試しにきた学生の気分だ。......現在進行形で学生やってたな、俺。」
とりあえず、入口らしき扉を見つけたのでそこを開いて中に入る。どこにでもあるスライド式の扉だったが、錆びついていたのか、扉を開ける時には予想以上に力が必要だった。
「結構力入れたのに、開けられたのはギリギリ通り抜けられる程度か。結構力には自信あったんだが......。まぁいいか、とりあえず通れる幅は確保できたしな」
こじ開けた扉の隙間から、横歩きで中へと入る。倉庫内は外見ほど汚れている感じはしなかったものの、それでも壁や天井のところどころに茶色い錆びがついてしまっていた。
「中は意外と普通なんだな。さて、目的の声の主はもう少し先か?」
倉庫の中には、紐でまとめられている鉄パイプの塊や鉄骨がいたるところにあり、その影に身を潜めつつ抜き足差し足で倉庫の奥へと歩く。
その時
「ッ!なんだ!?」
倉庫の奥、ちょうど俺が向かっていた先から、鉄パイプと何かが勢いよくぶつかる音がした。
俺はしばらく動きを止め、耳を澄ませて物音を聞き逃さないようにする。だが、それ以降音は一切聞こえてこず、再び足を進める。
数秒後、身を隠していた鉄骨の端に到達し、そこから顔を覗かせることができた。
「ッ!?」
思わず声が漏れそうになるのを、俺は必至に手を口に当てて抑える。俺が鉄骨の端から顔を覗かせて見たものは、仰向けで倒れ、お腹に開いた穴から今も血を流し続けている女性
「なっ......なんだ......あいつ......」
しかし、悲鳴をあげた原因はそちらではなかった。むしろ今、俺は視線の先にあるものに気を取られ、女性の状態にまで意識が向いていない。
「......」
血の海に倒れる女性の前に立つ、腕を真紅に染めたナニカ。ただ言えることは、その姿は人と呼ぶにはあまりにも異形だった。
全身が光り輝く白銀の体、狙いを定める鋭い眼、返り血に染まった鋭利な爪。
俺は、その姿を知っている。そいつの、その姿の名は
「人......狼......」
最初のコメントを投稿しよう!