18人が本棚に入れています
本棚に追加
「タ......ノ......タ......ム......」
目の前のゾンビは四肢を一切動かすことなく、ただ言葉だけを発する。
紡がれるその言葉はゾンビの意思などではなく、ゾンビになる前の少年自身の言葉であることを俺は理解した。
「......すまない。」
少年が作り出してくれた僅かな隙を利用し、俺はエネルギーの回復に集中する。
「タ......ム......」
やがて、ゾンビから発せられる声がだんだんと小さくなってゆく。それは、少年の意識をゾンビが少しずつ蝕んでいっている証拠だ。おそらく後数秒で少年の意識は消え、ゾンビの意識が肉体を支配するだろう。
「グッ......グルァァ......」
ゾンビは、完全に言葉を話さなくなった。徐々にその肉体は動き始め、再び俺に襲いかかってくる。
だが
「グガァァア!!......ッ!?」
ゾンビの一撃が、目標を捉えることはなかった。そして標的を失ったその攻撃は、そのまま倉庫の壁にぶつかり鈍い音を響かせる。
「グッ!?グルァ!!!」
完全に獲物を見失ったゾンビは、首を、全身を動かし必死に周囲を探る。
「こっちだ。」
ゾンビは、声のした方向へと向く。
自らの標的である人間は自身との距離を離し、何事もなかったかのようにそこに立っていた。
「グルァァァァァァア!!」
仕留められたはずの獲物に逃げられ、ゾンビは怒りの叫びを発する。
「......」
「グゥラァァァァァア!」
俺は努めて余裕を崩さず、しかし視線はゾンビを見据えて離さない。
「グァァァア!!」
「......フッ」
ゾンビは構えた右腕の拳に、近づくために走ったその勢いを乗せて放った。だが俺は、体をゾンビの左側へと寄せて拳を避け、がら空きになったゾンビの腹に掌をあてる。そして
「ッ!?グォアアアア!!」
蒼い光が、掌よりゾンビの体へと流れていく。それは、腕に具現させた生命の波動
「アアあアアああアあ!!」
その光は、吸血鬼を滅した炎とは違う。倒すのではなく、相手を鎮圧するための波動。
「ア......あ......」
波動を流されたゾンビは、その意識を刈り取られ地面に勢いよく倒れこむ。俺はそれを受け止め、仰向けにして地面にゆっくりと降ろした。
最初のコメントを投稿しよう!