第1章 髑と腐

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「タ......ノ......タ......ム......」 目の前のゾンビは四肢を一切動かすことなく、ただ言葉だけを発する。 紡がれるその言葉はゾンビの意思などではなく、ゾンビになる前の少年自身の言葉であることを俺は理解した。 「......すまない。」 少年が作り出してくれた僅かな隙を利用し、俺はエネルギーの回復に集中する。 「タ......ム......」 やがて、ゾンビから発せられる声がだんだんと小さくなってゆく。それは、少年の意識をゾンビが少しずつ蝕んでいっている証拠だ。おそらく後数秒で少年の意識は消え、ゾンビの意識が肉体を支配するだろう。 「グッ......グルァァ......」 ゾンビは、完全に言葉を話さなくなった。徐々にその肉体は動き始め、再び俺に襲いかかってくる。 だが 「グガァァア!!......ッ!?」 ゾンビの一撃が、目標を捉えることはなかった。そして標的を失ったその攻撃は、そのまま倉庫の壁にぶつかり鈍い音を響かせる。 「グッ!?グルァ!!!」 完全に獲物を見失ったゾンビは、首を、全身を動かし必死に周囲を探る。 「こっちだ。」 ゾンビは、声のした方向へと向く。 自らの標的である人間は自身との距離を離し、何事もなかったかのようにそこに立っていた。 「グルァァァァァァア!!」 仕留められたはずの獲物に逃げられ、ゾンビは怒りの叫びを発する。 「......」 「グゥラァァァァァア!」 俺は努めて余裕を崩さず、しかし視線はゾンビを見据えて離さない。 「グァァァア!!」 「......フッ」 ゾンビは構えた右腕の拳に、近づくために走ったその勢いを乗せて放った。だが俺は、体をゾンビの左側へと寄せて拳を避け、がら空きになったゾンビの腹に掌をあてる。そして 「ッ!?グォアアアア!!」 蒼い光が、掌よりゾンビの体へと流れていく。それは、腕に具現させた生命の波動 「アアあアアああアあ!!」 その光は、吸血鬼を滅した炎とは違う。倒すのではなく、相手を鎮圧するための波動。 「ア......あ......」 波動を流されたゾンビは、その意識を刈り取られ地面に勢いよく倒れこむ。俺はそれを受け止め、仰向けにして地面にゆっくりと降ろした。
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