第1章 髑と腐

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その言葉の意味を理解するまでに数秒かかった。それほどまでに男の話すその内容は、俺には受け入れがたいものだった。 「魔物......ですか?。でも、そんなライトノベルみたいなことが......」 男が言った通り、俺はその話が信じられなかった。吸血鬼だとかゾンビだとか、創作の中だけのものだと思っている俺には、その言葉は中身のない戯言にしか聞こえてこない。 だが、男のその言葉を真っ向から否定する言葉もまた、俺の頭には出てこなかった。 例えば、俺を襲ってきたあの動く死体。あまり詳しくはないが、俺の持つ吸血鬼の知識にその死体を当てはめてみると、口の隙間から見えた二本の牙、人間離れした力、そして何より、死んでいるはずの人間が動きだしたことなどに説明がついてしまう。 「そして君が変化したあの姿。まだ詳しくはわからないが、おそらくはゾンビなのではないかと俺は考えている。」 「ゾンビ......?。」 あの動く死体が吸血鬼であると考える理由は、なんとなくだが理解した。しかし、俺の黒い肌がゾンビのものであるという理由はよくわからない。俺の持つゾンビのイメージとは、皮膚は青く、ところどころ肉が爛れていて酷い腐臭を放つ気持ち悪いイメージだ。だがあの時に見た腕は、青色などではなく黒い色をしており、肉が腐ったり、爛れたりなども一切していなかったはずだ。 「俺は、変化した君によく似た奴と戦ったことがある。」 「ッ!?」 その言葉に、俺は驚愕を隠せなかった。俺がなったものと同じ奴が他にもいて、しかも男はそれと戦ったのだという。親近感からか好奇心からか、とにかく俺は、その話の先を聞きたくなった。 すでに俺の頭には、他の魔物の話など完全に消え去っていた。
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