第1章 髑と腐

31/31
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/267ページ
「これでok。......ふぅ」 ボタンを押し、後は音声が沸いたタイミングを教えてくれるまで待つだけだ。 「布団に入ったら寝るな、確実に。冷蔵庫に何かあったかな」 キッチン横の冷蔵庫から冷えたコーラを取り出し、注ぐためのコップと軽く食べるためのお菓子と一緒にテーブルの上に置いてひとときの安らぎを得る。 「......ぷはっ美味い。」 コーヒーももちろん好きだが、こういう炭酸飲料はやっぱり美味しい。未成年なので飲んだことはないが、仕事に疲れた大人がビールや酒を楽しみにするのも分かる気がする。このしゅわしゅわと甘みが、持ってきたお菓子にもよく合う。ポテトを油で揚げた高カロリーなお菓子に高カロリー飲料の組み合わせが、俺になんとも言えない幸福感を与えてくれる。 『御影村の住民が謎の一斉失踪を遂げてから、今日で一月が経ちました。国は......』 「......」 テレビを付けてコーラを楽しむ傍ら、俺は今日の出来事を思い出していた。自分が一度死んだこと、スカルから語られたファンタジーの魔物のような怪物のこと。そして何より、自分の体の中にあるゾンビのこと。それがどうしても気になった。 「......まぁ、あの人の言った通り、俺が理解できるわけないか。ゾンビの力もしばらくは大丈夫らしいし、今は忘れよう。」 今考えたところでどうしようもない。 俺は早々に浮かんだ思考を切り捨てると、再びコーラを口にする。 「......ん?そういえば」 次に俺が気になったのは、今も着ている学生服だ。さっきまでは疲労で気にならなかったが、所々破けて穴が開いてしまっている。吸血鬼に爪で引っ掻かれた時か、それとも鉄骨に下敷きになった時かはわからないが、とにかく制服を一着ダメにしてしまった。これは後で買い直しておかないと。ポケットに入れていた財布や携帯も、画面がひび割れていたり穴が開いたりしていてもう使い物にならない。 さっきまで考えていた魔物のこと、それと壊れた携帯や制服を買い直すためにかかるお金のことを、コップの中のコーラを一気に飲み干すことで忘れる。今はもう、何も考えたくない。 『お風呂が沸きました』 それと同時に、音声がお風呂の準備ができた事を知らせてきた。 「さて、お風呂に入ってくるか。」 俺は気持ちを改めて、コーラを冷蔵庫に戻して菓子の袋を輪ゴムで止め、コップを流しに置いてから浴室に向かう。 これからまた、いつもの日常に帰るんだ。
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!