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「冷たッ!?」
目を閉じてから間も無く、俺の額に何か冷たいものがあたった。
「......クスクス。」
「な、なんだ?」
昼寝のために閉じていた目を開くと、そこにいたのは楓だった。その手に握られているものから察すると、どうやら俺は額にキンキンのペットポトルを押し当てられたようだ。
「なんだ楓の仕業か。」
「ふふっ、びっくりした?」
「まぁいきなりやられたらそりゃ驚くだろ。で?楓はなんでここに?」
俺はその純粋な疑問を口に出す。すると楓は顔をむっとさせ、全身で私不機嫌ですアピールをし始めた。
「......お昼一緒に食べようって約束した人が、教室からいなくなってました。」
楓のその言葉を聞いて、俺は三時間目の休み時間にした約束を思い出した。
「......すまん。完全に忘れてた」
「むぅ......ひどい。そんなこと言う人にはこの飲み物はあげませんよーだ」
「弁当はくれるんだな」
「だって勿体無いもん。私も二つは食べきれないし......」
妙なところで約束を守る。それが楓の面白いところだと俺は思う。
楓は俺の横に座り、持っていた片方の弁当を渡してくれた。
「どうぞ、イオくん。」
「ありがとう。......約束忘れててごめんな。」
「まだ許さないもーん。ぷんぷん。」
俺は約束のことを再び謝罪し、それでも不機嫌そうな態度をとる楓に苦笑いしつつも手渡された弁当の包みを開いて食べ始める。卵焼き、タコさんウインナー、ハンバーグと中身はいわゆる普通の弁当だが、あまり食欲が湧かなくなった俺の脳が次を催促してくるほどにその味は絶品だった。
「どう?美味しい?」
「めちゃくちゃ美味しい。......んぐっゲホッ!ゲホッ!」
「もう、そんなに急いで食べるからだよ?はい、お茶。」
「あ、ありがと。......ぷはぁ。」
結局飲み物もちゃんと渡してくれた楓の優しさに感謝しつつ、俺は弁当の残りを瞬く間に完食した。
「ふぅ、ごちそうさま。美味しかったよ」
「ふふっ、よかった。じゃあ空になったお弁当箱ちょうだい」
「いや、これは明日洗って返すよ。」
「だーめ。作ってきたのは私なんだから最後まで相手に気を使わせちゃダメでしょ?だから、ね?」
なんども洗って返すと言う俺に対して、意地でも意見を曲げない楓。空になった弁当箱を巡ってここに争いの火蓋が切って落とされた。
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