第2章 楓と腐

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「くっ、取られたっ」 「とった!ブイブイ!」 結局、空の弁当箱は楓に一瞬の隙を突かれて取られてしまった。 弁当箱を奪い返しただけなのに楓はえらくご機嫌だ。今も両手でVを作って満面の笑みである。 「......最後まで悪いな。」 「気にしなくていいのに。ふふっ、じゃあ最後にもう一回だけ言って?」 「何を?」 「お弁当作ってくれた人に言うこと、あるでしょ?」 「......?ありが......とう?」 「なんで疑問形?」 「面と向かって言うのは......なんとなく恥ずかしいんだよ。」 多分、今の俺の顔はかなり赤くなってると思う。同い年の女の子相手に面と向かって言葉を言うのは、思春期男子にはなかなかに勇気と度胸が必要なことなのだ。 「顔、赤くなってるよ?イオくん恥ずかしがってる。意外な一面発見かも」 「い、いいだろ別に。......ありがとう」 「え?何か言った?」 「いや、なにも。」 「えぇ、気になるよー!教えてよー!」 「気のせいだって」 屋上に吹く風を浴びながら、楓とたわいも無い話をして残りの時間を潰す。普段はもう少し早めに教室に戻るのだが、今日は予鈴が鳴ってから教室に戻った。その時、楓と同じタイミングで教室に入ってしまったため、あの嫌いな空気を再び部屋中に充満させてしまった。幸いにも五時間目の授業はすぐに始まったので、その微妙な空気と視線を浴びる時間は少なく済んだのだが。 『よし、じゃあ授業始めるぞ。』 『起立、気をつけ、礼』 『『お願いします。』』 『はい、じゃあ教科書五五ページね。』 指定された教科書のページとノートを開き、教師は内容を進め始める。それと同時に、俺は普段通り窓から景色を眺め始めた。
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