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人狼がその場から姿を消したことで、すくんで動けなくなっていた体が動き始めた。俺は自分にかかる重力に逆らうことなく、勢いよく尻餅をつく。尻に痛みはあるが、それは俺が生きている証拠でもある。どうやら、首の皮一枚、なんとか繋がったらしい。
ひとまず俺は、ここで起きた出来事の一つ一つを自分の中で整理しつつ、同時に、緊張で強張った肉体と、激しく脈打つ心臓を落ち着かせた。
そして、ある程度心に余裕ができたタイミングでゆっくりと立ち上がり、血の海に倒れている女性に近づいていった。
「こういう場合、救急車よりも先に警察を呼んだ方がいいのだろうか。うっ......」
人狼に睨まれている間は感じなかったが、やはり人の血を見ると気分が悪くなってくる。まだまだ精神が未熟な俺には、大きめの水溜りができるほどの大量の血はあまりにも刺激が強すぎた。
「......?なんだ?」
一瞬、なにかが女性の首のあたりで光ったのを、俺は見逃さなかった。
俺は光ったその場所に血がつかないようゆっくり手を伸ばし、手のひらに触れた金属の感触を確かめるとゆっくりと自分の方へたぐり寄せる。
「これは......」
それは、目の前の女性とその彼氏だと思われる2人が肩を寄せ合い、最高の笑顔を浮かべている様子が撮られた写真入りのペンダントだった。
「生前の姿......か。まだまだこれからだったろうに。」
その後俺は、ひとまず警察に電話を入れることにし、その女性に背を向ける体勢で電話をつなげた。俺は、もう固まって黒くなり始めたその人の血と生々しい傷から、とにかく目をそらしたかった。
「女性が血を流して倒れています。場所はーー」
その時、背後から地面を擦る音がかすかに聞こえた。電話中ではあったが、その音は間違いなく俺の耳に届いた。
「ん?」
しかし振り返って見ても、女性が倒れているだけで物音がする原因になりそうなものはなにもなかった。
「......?あ、すいません。場所は緋翠商店街の裏路地にある古い倉庫の中です。」
再び俺は電話で情報を伝え始める。
「......はい。はい、わかりました。」
そう最後に言うと、俺は電話を切った。
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