第1章 髑と腐

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俺は立ち上がり、何かないかともう一度まわりを見回す。しかし、最初にみた時と同じく、周囲には何もない暗闇だけが広がっていた。 『(......ん?)』 だが一つ、最初に見回した時にはなかったものがあった。位置は自分から見て左側。その方向には、遠くで紫の光を放つ何かが、ゆらゆらと漂っているのが見えた。 『(なんだあれ......。見た目は人魂みたいだけど、色が禍々しすぎないか?)』 俺は徐々に近づき、まじまじと人魂らしきそれを見る。だが纏う紫の火のようなものがやや波打つだけで、人魂にそれ以上の反応はなかった。 『(どうする......)』 暗闇しかないこの場所で、現状を打破できる可能性があるものはこれしかない。俺は覚悟を決め、ゆっくりとそれに触れた。 瞬間 『(なっなんだ!?うわあああああああ!!)』 その人魂は紫の光を勢いよく放出し始めた。やがて放出された光はその場にあるものをすべて包み、俺の意識はそこで途切れた。 少しずつ、死体は自分が仕留めた獲物に近づいていく。まるで猟師が獲物の生死を警戒するかのように、ゆっくりと獲物との距離を縮めていった。 ◇ 「グチャァア......」 死体は笑うようにその口を開き、前歯にある大きな二本の犬歯を光らせる。言葉は話さずとも、口を大きく開いたその顔からは仕留めた獲物を喰らいたいという欲望が溢れ出ていた。 獲物まであと少し。死体が刻一刻と伊御に近づいていく。その時ーー 「グャ?グギャァァァア!?」 突然、人間が下敷きにされている鉄骨の付近から、黒紫の禍々しい光が噴水のように放出された。死体はその本能故か、すぐさま距離をとりその光を警戒する。 放出された光の中心にある鉄骨がゆっくりと空中に浮かびあがり、やがて完全に地面から離されると、鉄骨はそのまま端の方に放り投げられた。投げた鉄骨は着地点にあった鉄パイプの塊とぶつかり、けたたましい音を倉庫内に響かせる。 放り投げられた後に響く音や土煙にも死体は反応せず、その禍々しい光の中心から目をそらさなかった。それどころか死体は、その場所を見てさらに警戒心を上げた。 なぜならば、そこには絶対にありえない存在。自らが獲物として仕留めたはずの人間が立っていたからだ。
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