18人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
「......っ」
俺は、現世の肉体で意識を取り戻した。まだ頭はぼんやりとするが、自分の目に映る光景は、死んだ時にみた光景そのもの。
俺は、一度去ったはずの現世に帰ってきたのだ。
「(俺は......一体......)」
未だはっきりとはしない意識の中、俺は微かに認識した天井から漏れる光を見つめる。
何が起きたのか、いくら考えても俺にはわからない。だが、俺はすぐにその思考を止めた。天井から元の位置に戻した俺の視界に、自らを殺害した動く死体が映ったからだ。
「チッ......まだいたか。いなくなってたりしないかちょっと期待したんだが。」
どうやら死体は俺を逃す気はないらしい。俺を確認した奴は、今度は追いかけることはせず最初から手当たり次第に鉄骨や鉄パイプを投げつけてきた。
「くっ!......はっ!?」
俺は驚愕した。飛来物から身をかわそうと僅かに足に力を入れただけで、次の瞬間には自分では到底出せないだろう速度をだし、横に勢いよく飛び出していたのだ。
「うわっ!?」
意図しない勢いだということは、当然受け身など取れない。俺はそのまま、側にあった鉄骨に勢いよく突っ込んだ。
「いった!......くない?」
勢いよくぶつかった鉄骨は、その衝撃でくの字に曲がっている。それだけの勢いだということは、本来なら突っ込んだ方も無事では済まないだろう。だが、それほどの衝撃を受けていながら、俺の体には怪我どころか痛みすらなかった。
「(なんだ?足に少し力を入れただけで...。それに、この鉄骨の凹み具合からしてかなりの勢いでぶつかったはずだ。それなのに、俺は痛みをまったく感じなかった...)」
自分の体に何が起こっているのか、俺自身理解できなかった。だが、そんな中でも相手は待ってはくれない。困惑している俺に向かって、死体は急速に近づいてきた。
「グッシャァァァァア!!」
「チッ!そうなんどもやれると思うな!」
死体は俺に対して飛びかかり、その長く伸びた爪を突き出してくる。俺はそれに対して、がむしゃらに拳を放った。
「い"っ"!?」
「グェパッ!?」
死体の伸ばした爪が、俺の肩に突き刺さる。爪の刺さった肩には生温かい何かが流れるのを感じ、俺はそこで、鉄骨に追突した程度では感じなかった痛みを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!