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しかし、俺もただではやられなかった。肩に走る激痛に顔を歪めながらも耐え、放った拳を奴の顔面に叩き込んだのだ。女性の顔を殴るという行為は許されるものではないが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
「いてぇ......。鉄骨にぶつかった程度じゃ痛くも痒くもなかったのにッ。」
肩の傷は予想以上に深いのか、かなりの激痛を感じる。しかし奴から視線を外すことはできず、傷の様子を確認することはできない。だが死体との距離は、自分の感覚より少し長めに取る必要があるようだ。
「ヴェガァァア!!」
俺が吹き飛ばし、かなりの速度で鉄骨にぶつかったはずの死体は何事もなかったかのように起き上がり、急速に自分との距離を縮め攻撃を再開した。
「ヴェア!ガッ!ガァア!!」
「ぐっ!はっ!こんのっ!」
死体は、伸ばした爪を高速で振り攻撃してくる。まるで『お前をバラバラに引き裂いてやるぜ!』と言わんばかりの斬撃の嵐に、俺は苦戦しつつも応戦する。だがその斬撃のすべてを避けることはできず、せいぜい三回の攻撃のうち一回を避ける程度だ。逆に死体の方はといえば、相手が拳であるのに対して爪の分リーチが長く攻撃を喰らう回数が少ない上、そもそもあまりダメージを感じないために、着実に相手を追い詰めていった。
やがて、双方の攻撃がやんだ。その時片膝をついたのは、俺の方だった。
「はぁ......はぁ......。爪や筋力もずるいが、それだけの斬撃を繰り返して、よく体力持つな......。はぁ......。いや、死体に体力なんて関係なかったか」
せめてもの抵抗に、目の前の死体に対して悪態をつく。だが奴はその悪態を一切気にすることなく、ダメージと疲労で動けなくなった俺の肩を掴み、鋭く伸びたその牙で噛み付こうとする。俺にはもう、それを阻む体力は残されていない。少しずつ、奴の牙は俺に近づいてくる。
「ッ!?ギャガァァアアアアアアア!!」
突然、俺を掴んでいた死体の手が離れた。俺は地面に手をつき、首だけを動かして奴の方を見る。
奴は顔の半分から肩へかけて、肉が赤く溶けだしていた。
「な、なにが......。」
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