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「ワタシにはそのような機能はありません。呼び名を変えたい場合には、ワタシにトオルさまの新しい呼び名を追加し、優先順位を設定してください」
アンドロイドは通常、国が一元管理しているナレッジ・ベースに加えて、礼儀や作法と言われるコモンセンス、感情を表現するエモ・DB、さらにはアンドロイドの記憶とも言える巨大なパーソナル・メモリの内容を判断・動作時に照合する。彼女は自分にしか影響しない、そのパーソナル・メモリでさえも、書き換えや削除を行うことを極度に嫌がった。
「知識や記憶が消失するのは恐ろしいことです」
一度、理由を聞いたときには、彼女は子どもに言い聞かすようにゆっくりと答えた。なんでも論理立てて答えるアンドロイドの回答としては不可思議だが、データの消失がアンドロイドに重大なエラーを引き起こすことは十分にあり得る話でもあり、その類のニュースに事欠かない近頃では、彼女の言うことはセーフティ機能の一つなのだと理解している。
「また気が向いたら試してみてよ」
肩をすくめてみせると、彼女はしばしウィーンという機械音で会話の間をつないだ後、静かに頭を下げた。
謝るべきか承諾するべきか困った時、彼女はこういった仕草をする。
まるで人間みたいなその瞬間も好きで、私はよく彼女に、というよりもアンドロイド全般に対していじわるな言い方をした。
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