2人が本棚に入れています
本棚に追加
私は聞くともなしに耳にしたその手の噂を思い出していた。
「どうしましたか?」
彼女が私を見つめる。
「なんでもない。行こうか」
彼女に笑いかけ、私は玄関へと向かった。
出先では彼女に服を選んでもらって別れた。彼女は帰宅し、私は喫茶店へ向かった。
入口の鐘の音に気づいたのか、振り向いた父が私を呼んだ。
「早かったな」
「彼女に決めてもらったから」
父がウェイターを呼ぶ。接客型のアンドロイドがすぐに来て、飲み物を注文する。
「ご注文を承りました。少々お待ちください」
ウェイターは柔らかく微笑み、滑らかにお辞儀をした。
滑るように歩いて戻るウェイターの姿が嫌でも目に入る。
「オリオンはずいぶん長く働いてくれたな」
「まだ十分働けますよ」
父が私に向きなおる。父もウェイターの姿を見ていたようだ。彼女はあんなに滑らかに歩かないし、あんなに自然に微笑んだりしない。
「古い機体は突然暴走を起こすことがあるし、故障することもあり得る。もう休ませてあげるべきだろう」
「休ませるのは賛成です。けれど、休ませるのと廃棄することは違いますよね?」
「お前がオリオンのことを大切に思っていることは知っているよ。けれど、うちにも何体ものアンドロイドを保持しておける余裕がないんだ」
最初のコメントを投稿しよう!