オリオンの指先にぬくもりを

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 そんなことは言われなくてもわかっている。膨大な電気代にメンテナンス代。アンドロイドが保持できるデータ容量の拡張も必要だし、劣化したパーツの交換もいる。 「父さんは、彼女が大切じゃないんですか?」  父は大きく息を吐いた。 「……大切さ。彼女は特別だよ。でも、もう私たちは彼女を解放してあげるべきだと思っている。いや、思えるようになった」  父が諭すように私の顔を見る。先ほどのウェイターが来て、紅茶とコーヒーを置いていった。 ふわりと湯気が父の目の前に立ちのぼる。 「それに廃棄ではないよ。オリオンはリサイクルされるだけだ。メモリやデータは別のアンドロイドに引き継がせるし、なんの問題もない。電源を長時間供給しなかったら、結局廃棄するしかないのはわかっているだろう?」  なぜそんなに他人事のように言えるのかわからない。ほかのアンドロイドでは意味がないのは父もわかっているはずだ。 「とにかく、私は納得していませんから」  彼女を機械としてしか扱わない父と話すのが嫌で私は席を立つ。 「納得しなくとも、今月の終わりにはオリオンは回収される。それまでに、心の整理をつけておくんだよ」  父はコーヒーを一息に飲み干すと立ち上がり、私の頭をあやすように軽く叩く。その子ども扱いにむっとして乱暴に手を払った。     
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