オリオンの指先にぬくもりを

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 苦笑したまま、父は片手をあげる。しばらくするとカランという乾いた音が店内に響いた。  父が彼女を連れてきたのは私が13歳の頃だ。頭を下げた彼女の顔を見たときの衝撃は忘れない。  彼女は母にとてもよく似ていた。 「今日からうちで働いてくれるオリオンだ。オリオン、こっちはトオルだよ」 「こんにちは、トオルさま」 「……どうも」  6歳の頃に死んだ母は、顔だけは肖像画で穴の開くほどみていても、母が私にどんなふうに話しかけ、どんなふうに笑っていたか、年々記憶は曖昧となり、私はそのことに怯えていた。  今思えば、父もそうだったのだろう。消えゆく母をつなぎとめる方法を私たちはオリオンに見出そうとした。  オリオンはアンティーク型と称された鑑賞用のアンドロイドで、ほかのアンドロイドのような体全体を使う動きが苦手だったが、とてもよく働いた。  最初こそ衝撃を受けたものの、じっくりと向き合うと彼女は母とそれほど似ていなかった。当時のアンドロイド全般に言えることだが、彼女は表情に乏しく無機質なその顔はやはり機械を彷彿とさせ、造形が似ているからこそより顕著に肖像画の母との違いを浮き彫りにさせていた。  「トオルさま、起床の時間でございますよ」     
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