消失呪と召喚呪の利用による、個体の時間跳躍について

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  「例えばね、ここにあるペンを消すとするだろう」  大陸随一の王立大学。応用魔法学研究室の一室。  紙束が積み上がった机で、窓からの光を後光のように浴びながら、教授は万年筆を取り上げた。  アンティークのようだが、そう綺麗ではない。  また蚤の市ででも見つけて来たのだろうか。というか昼寝から起きていきなり何だと思いながら、助手は頷く。  手の中でペンは消えた。  教授が呪文抜きで魔法を使う事には、今更驚かない。 「さて今、あのペンはどこにあるんだろうね?」 「……切り離された別の時空間」  中等部時代に読んだ教科書の通りに答えると、教授はその通りと笑った。 「しかしね、今消したものを、時間が経ってから出現させても、何ら劣化はしてないんだ。どうしてか分かるかな?」 「そりゃあ……」  また教授の思い付き問答が始まった。  助手は言い淀んで、困った挙句てきとうな事を言う。 「別の時間軸に行ってるなら、時間の流れも違うでしょうよ」 「その解釈では、今消したものが一瞬にして100年の時を経ることだってあるわけだ」 「そんな話は聞かないですね。……じゃあ、切り離されるだけってコトです?」 「うん、そうだね」  教授が楽しそうにきらきらした目をしている。  助手はさりげない風を装って、近くの椅子へ座った。  学生時代から知っている。コレが始まると長いのだ。 「そもそも一般の定義と解釈を考えると、消失魔法は次元を渡る魔法の範囲に入ってしまうんだ。しかもそのまま取り戻せるんだから、これはかなりの高等魔法だよ?」 「そりゃそんなんが中等の連中に使えるワケが無いですね。ええと……何だっけ。つまり、印付けと界渡りの魔法を同時に? そんなの、センセくらいじゃないと無理なんじゃないスか」  肩をすくめる助手に、椅子にもたれて教授は笑う。 「前者はまだ簡単なんだけれどね」  続けようとし、話が横道に逸れたのに気付いて、それはまた今度、と手を振る。 「そこで、消した物がそのまま戻って来る、ということに気付いた人が、ある実験を行った」  先生が?という目をされたが、違うよと苦笑する。 「教科書にはおそらく出て来ない、すこし前の博士だよ。転移魔法が得意で……消失は、まぁ普通だったかな? そんな人だ」  
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