6 願い

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気がつくと、処置室のベッドの上だった。 涙目の武士さんを見て、今のは夢じゃなかったんだってわかった。 「ごめんなさい、赤ちゃん、守れなくて」 「気にするな。先生も言ってたけど、この時期の流産は母親に原因があることは少ない。もう、自分を責めるな」 私は泣いて、それからハッと気付いた。 「私、どれくらい寝てたの?蓮は?」 「今は朝だよ。蓮はまだ予断を許さない状態が続いてる」 すぐにベッドを降りようとした私を、武士さんが押しとどめた。 「お腹の子のことで、母体にも負担がかかってるんだ。もう少し休んでからじゃないと。せめて、昼までは寝てろ」 言われて、私はベッドに体を横たえた。 身体が、鉛が入ってるみたいに重かった。 それから昼まで横になっていて、私はまた蓮の病室に戻った。 お母さんは私を見て、泣きそうな顔をした。 「辛かったわね。まだ、寝ててもいいのよ?」 「今は、蓮のそばにいたいんです」 「ありがとう。辛くなったらすぐ横になってね」 私は椅子に腰掛けて、蓮の手をずっと握っていた。 お腹にいたあの子を見送りに行ったとき、私は確かに蓮と会った。 あの後、蓮が向こうに行ってしまっているなら、きっととっくに蓮の命は尽きているはずだ。 それでもまだ蓮が頑張っているということは、蓮はあちら側には行かなかったということだ。 私は蓮の手を強く握りしめて、願った。 お願い、蓮。目をさまして。 「蓮!」 お母さんたちの声に目を開けて蓮を見ると、蓮は目を開いていた。 お医者さんがモニターを見て、もう大丈夫ですよ、と言った。 熱も下がっていた。 「心配かけて、ごめん」 掠れた声で蓮が言った。 「綾………お腹の子は」 「……うん、ダメだった。ごめんね」 「次の赤ちゃんを大切にしてあげればいいよ」 夢の中と同じことを言われて、びっくりして蓮を見た。 ああ。 蓮も同じ夢を見てたんだ。 あれは、本当に此岸と彼岸の境目だったんだ。 「………きれいな、お花畑だったね」 きっとあの子は、お腹にいた子は、その小さな命をもって、蓮を助けてくれたんだ。 「俺と綾は、やっぱり結ばれない運命だったんだな。やっぱり俺は、一生お前に勝てないよ」 色々と諦めたように、武士さんが言った。 「今度は、負けるつもりはないですから」 蓮の強気な発言に、武士先輩は満足そうに笑った。
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