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日曜の晩。
実家の母から電話がかかってきた。
「アンタ、蓮くんと別れたの?」
なんで、お母さんがそんなこと知ってるんだろう。
まだ、由香と武士さんしか知らないはずなのに。
母は私の動揺などお構いなしに続けた。
「今日、蓮くんとご両親がやってきて、婚約を破棄したいって。アンタにはもう話し済みだって聞いたけど」
「うん。金曜日に別れ話された」
「婚約破棄まで言われると、ただの喧嘩じゃないみたいね。何か、心当たりあるの?」
「私が、仕切りすぎたんだと思う。
あと……」
言い淀んだ私の言葉を、母はずっと待っている。
「会社の先輩が、蓮が別の女の子と一緒にいるところを見たって。
でも、私には信じられない」
「まあ、理由は蓮くんにしかわからないかもね。でも、ご両親連れての婚約破棄の申し込みだったから、私もお父さんも受け入れたけど、良かったのね?」
「うん。たぶんもう、蓮は戻ってこないから」
「それなら、早く式場キャンセルして、親戚にも伝えなきゃ」
「そのことなんだけど、少し待ってほしいの」
「待つって……」
「指導係だった水野先輩に、プロポーズされてて」
流石に母も呆気にとられたようだった。
「いつ、プロポーズされたの?」
「金曜日。蓮と別れた直後に」
「受けるつもりなの?」
「そのつもりで、いる。蓮のことは忘れられないけど」
「その先輩は、それでいいって言ってくれてるの?」
「明日、話し合ってみようと思ってる」
「そう……正式に決まったら、また挨拶に来てちょうだい」
母はそれだけ言って電話を切った。
考えなきゃいけないことは山積みだ。
武士さんのこと、これからのこと。
武士さんがほんとに私のことを好きでいてくれているのは、今日由香と話してはっきりした。
あとは、自分の気持ち次第だ。
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