1 突然の別れ

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そんなことを考えていると、また電話がなった。 武士さんからだ。 「遅い時間にごめん」 「いえ、大丈夫です」 「改めて、綾ちゃんにプロポーズさせてほしいと思って」 ドキン、と胸がなった。 「綾ちゃんが入社してからずっと、好きだった。彼氏がいるからちゃんと諦めるつもりだったんだ。本当だよ?でも、その反面、本当はずっと、手に入れる隙を窺ってた。カッコ悪いよな……」 自嘲して、武士さんは続けた。 「今回のこと、綾ちゃんは辛かったと思うけど、俺にとっては僥倖だった。 綾ちゃんがまだ彼氏のこと好きでもいいから、俺と結婚してほしい」 「蓮のことを、好きでも……?」 「そんなに簡単に、気持ちは切り替えられないでしょ?」 武士さんの言うとおりだ。 そんな簡単に切り替えられる程度の気持ちなら、結婚しようなんて思わない。 「ただ、せっかく式の日取りも会場も、ドレスも押さえてるなら、キャンセルしないで、俺との結婚式に使えばいいと思う。もうあと、数ヶ月しかないけど」 武士さんは畳み掛けるように言った。 「同じ部署では働けなくなるけど、専業主婦してもいいし、違う部署で働いてもいい。綾ちゃんの希望に合わせるから」 こんなに私のことを思ってくれて、私の意思を尊重してくれる。 それでも、恋愛はできたとしても結婚はできない。 私が結婚しようと思ったのは、蓮が相手だったからだ。 「武士さん。結婚は、できません。ごめんなさい」 しばらくの沈黙の後、小さな声が聞こえた。 「付き合うだけでも、だめ?」 こんなに一生懸命になってくれてるのに、申し訳ない気持ちになる。 でも、自分の気持ちに嘘はつけない。 それに、武士さんは「蓮を好きなままでも」といってくれたけど、その上で結婚するのは、いくらなんでも失礼すぎる。 「わかった………約束通り、式場のキャンセル料は俺が払うよ」 「いえ……元はといえば私と蓮の式で、二人でお金を出し合ったので、蓮に連絡を取って二人でキャンセルします」 「そっか。わかった。ただ、結婚しなくていいから、付き合ってほしい」 「お付き合いするだけなら……」 私は、なんて自分勝手な女なんだろう。 それでも武士さんは、よかった、と仄かに笑った気配がした。
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